12の怖いい話―和物幻想・恐怖・怪奇小説のヘレディタリー(継承)

 

 


高原英理恐怖譚集成』高原英理著を読む。

 

ホラー小説というよりも、文学の世界に軸足を置いた幻想・恐怖・怪奇小説といった感じ。たとえば「かげ」といっても、影、陰、蔭、翳などがある日本語。どの漢字を使うかによってその描写するシーンが異なる。


手練れの作者は声高にではなく静かに話を進める。じわじわと怖さやイヤーなものが伝わってくる。たぶん作者が愛してやまない作家たちの構築した世界や作風をベースに、そこに作者独自の秘伝の技を凝らして仕上げた12篇の作品。


キャッチコピーでは和物と一応書いたが、古今東西の怖い話を書いた作家たちを継ぐべき者の一人だろう。アリ・アスターの映画『ヘレディタリー(継承)』とは関係ないが、似た部分もあるような。

 

新しい作品なのに古くさい。あえてそうしているのだろうが。
ストーリーや結末の見事さよりも、むしろ、その怖い表現を、もろにしゃぶりつくすことをおすすめする。何話か紹介。

 

『町の底』
とある町では「浜辺を歩いていると、後ろから顔の半分ない子供がついてくる」という噂が飛び交っていた。都市伝説を蒐集して記事に書いている私がその地を訪れる。以前、子供のバラバラ殺人事件が起きた。顔の半分は見つからなかった。偶然か、否か。町の長老に土地の謂れを聞くと。

 

『呪い田』
代々、その田んぼの持ち主は死んだり、殺されたりするという不幸の連鎖が続いていた。何かに呪われている、田んぼを含む地域は無人となった。「泥田坊」という妖怪のしわざか。

 

『グレー・グレー』
街にゾンビが徘徊している。彼女・和花がゾンビになった男と切ない恋愛もの。彼女とは会話はできる。しかし、死んでいるのだ。

 

『影女抄』
同性愛者である峰子は密かにミオに恋していた。残業で疲れた余り、電車で寝過ごした彼女。夢の中で凌辱されたミオと再会する。ミオを助けて自室に連れ込むが…。妄想と現実が混濁している峰子が見たものは。

 

『かごめ魍魎』
全篇「山形県の方言」で語られる話。「日本昔話」風なのだが、こんなにこわい「かごめかごめ」はないだろう。

 

山本タカトの挿画を表紙にした造本もナイスだ。

 

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