ようこそ『ホテル・アルカディア』へ

 

ホテル・アルカディア (集英社文芸単行本)

ホテル・アルカディア (集英社文芸単行本)

 

 


『ホテル・アルカディア』石川宗生著を読む。


ホテル・アルカディアの支配人の令嬢プルデンシアがヒッキー(引きこもり)になった。
ホテル暮しの芸術家たちは毎晩、不思議な物語を彼女に聞かせる。
そしてなんとか出て来てもらおうとする。

 

今様『アラビアンナイト』といえる枠物語(額縁小説)スタイル。
枠内には21の不思議な短篇が。いやはやその趣向を凝らした。
シュール、マジックリアリズム、エロス、タナトス、ユーモア、アイロニーなどなど。

ボルヘスの『バベルの図書館』に通底するような。
図書館は本だが、こちらは生きた本つーか朗読。

壮大なホテル・アルカディアは、地上の楽園か。

 

気にいったものを取りあげる。

 

『代理戦争』
なぜか「ぼく」の身体の各部から動物が現われるようになる。穴から出没するらしいが、仕事中もプライベートも関係なしに出てくる。恋人のエレナと「愛の営み」をしたら、その数日後、彼女にも同じ症例が。同僚のパリスにも現われる。エレナと関係している。「ぼく」は、エレナを追及、関係を認める。涙に扇情して一戦交える。「ぼく」に巣食っていたこびとたちは、エレナのこびとたちを制覇する。新しい領土へ移動する。落語の『頭山』を思わせる。


『ゾンビのすすめ』
疲れ知らずのタフな人になる究極がゾンビになること。ゾンビパウダーで手軽にゾンビになることが大流行している。イナマツの恋人キョウコもゾンビになる。顔色は悪いし、死臭がするけど体調はこの上なくバッチグー。ゾンビになることを嫌がっていたイナマツ。いざ、ゾンビになると気分が一新。ところが流行は次へと。オチがきいている。

 

『本の挿画』
「ある夜、本の挿画がやって来て」「わたしの部屋」に居ついた。彼は実に慇懃無礼。しかし、失恋した「わたし」を狩りに連れて行ってくれた。本の挿画なのになぜか有能なハンターだった。紙とインクなのに肉食系。ワイルドな彼に恋愛感情をなんとなく持ち始めるといなくなった。それから「わたし」はむしゃくしゃすると彼から教わったように1人で狩りに行く。


『測りたがり』
シャーロットの友人エミリが「連れて」来たボーイフレンドのパトリック。彼はなんでも図りたがる男。もちろんエミリのサイズは測定済み。エミリとの「セックスの身長は130㎝」。「平和は27㎝。戦争は149㎝」だとか。ワインを3人で飲んでいた。エミリがトイレに立ったとき、パトリックはシャーロットを図り出す。ヤバい、測られるのが快感になるとは。彼女は測られたがり。

 

『糸学』
運命の赤い糸とか言うが。マイの「左手には赤、黄、青、緑、紫の糸が生えていた」。小指が赤だった。同棲しているリュウの左手の小指は赤ではなかった。結婚を考えていたが、心が揺らぐ。赤い糸で結ばれていたのは、こともあろうに好きなタイプじゃない「上司のイコ」だった。リュウは赤い糸で結ばれた女の子と付き合うことになって別れる。イコはマイに迫ってきてプロポーズする。ま、いいかと思いながらもなぜか納得できない彼女。ほんとかよ、赤い糸って。


ピックアップしたら、なんだか似たようなものだけど、もっともっと多彩な話が楽しめる。パク・ミンギュファンならおすすめしたい一冊!


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