『誤作動する脳』樋口直美著を読む。
突然、病に冒された著者。
匂いがまったくしなくなり、光に過剰反応するようになる。などなど。
総合病院の精神科を受診し、うつ病と診断される。
うつ病?自身では若年性認知症ではないかと思っていた。
抗うつ剤などを服用するが、症状は一向に改善せず、地獄のような6年間を過ごす。
口外はしなかったが、幻聴や幻視も体験する。
また怠け病といったうつ病への周囲の誤解や無理解。
結局、うつ病ではなく「レビー小体型認知症」だった。
ぼくは知らなかった病。
うつ病にも認知症にも症状がよく似ているらしい。紛らわしい。
横道に、ちと入る。
病気になっていちばん困惑するのは、何の病気かわからないことだろう。
難病とて病名が明らかになれば、たとえ効果的な治療法がまだ発見されていなくても
随分、気分は違うだろう。
病に罹る苦しみ、病状がわかってからに苦しみなどを
包み隠さず述べている。
ともかくいままでできたことができなくなる。簡単なこともできなくなる。
はじめはショックを受ける。自分を責めたりもした。
でも、作者は現状の自分自身を客観視した。
どこまでならできるか。対応策を考える。
そのリカバリーには頭が下がる。
「レビー小体型認知症」エバンジェリスト(キリスト教における伝道者)と
なった著者の発言や執筆活動には病気で苦しんでいる人から健常者まで
勇気づけられる人も多いだろう。
また、横道。
作者の幻視に関する記述がとても興味深い。
『遠野物語』に出て来た座敷童の話と似た体験をしていたと。
「霊感の強い人」と言われたそうだが、
作者はこれもまた「脳の誤作動」の一つだと否定する。
巫女や恐山のイタコ、沖縄のユタなど霊媒に持つ霊的能力が
みながみな「脳の誤作動」ではないだろうと
怖いもの好き、不思議好きのぼくはそう思いたい。
最後に。いちばん禿同したところ。
「早期発見は無理」
だよねえ。
「最初から正しい診断にたどりつけなくて当たり前」
「膨大かつ日々更新されていく数多い病気と治療の知識を、一人の医師が網羅するなど不可能」
「薬は使ってみなければ、その人に合う薬も、合う量も、どんな効果や予期せぬ副作用が出るのかも予測がつかない」
誤作動は脳ばっかじゃない。
免疫システムの誤作動が関節リウマチなどを引き起こすし。
そこらへんも踏まえておかないとね。