「踊る熊」はかわいい?かわいそう?

 

 『踊る熊たち 冷戦後の体制転換にもがく人々』ヴィトルト・シャブウォフスキ著  芝田 文乃訳を読む。

 

「踊る熊」はブルガリアのロマの伝統芸能だったそうだ。それがソ連の崩壊で共産主義から資本主義になってブルガリアEU加盟することで「非合法」、ご法度となった。芸をする熊はかつては人気があった。かわいいもんなあ。

 

ボリショイサーカスでバイクに乗る熊を映像で見たことがある。収入も良かったそうだ。ただし、熊は怖ろしい野生動物。いつ襲われるかもしれないリスクを背負いながらの日々は大変かも。無理やり芸を覚えさせることは、動物愛護の観点から見れば虐待なのだろう。しかし長い間人々に親しまれていた「踊る熊」を単にかわいそうとか思うのはどうなのかと素朴に訝る。

 

例えば、中国や韓国、日本の一部の地方の犬食文化、日本の捕鯨やイルカ漁も同じ視点から目くじらを立てられているが。熊や鯨はかわいそうで肉として食われる牛や豚はかわいそうじゃないのか。野生動物を囲い込んだ動物園はいいのか。おっと、脱線、脱線。

 

「踊る熊」たちは保護センターに集められた。飼い主であるロマとの交渉がまさに丁々発止の商談、面白かった。保護センターはサンクチュアリだったのか。そうとは言えなかったようだ。人に育てられた野生動物は自然に帰るのは困難とされているが、「踊る熊」たちもそうらしく長生きはしなかったらしい。

 

ソ連・東欧の共産主義体制が崩壊したとき、何か資本主義が勝利したかのように思われた。自由に生きられると。ベルリンの壁が壊れて東西ドイツは統一した。テレビのドキュメンタリーで旧東独の老婆がぼやいていたのを覚えている。西独と一緒になることは期待したが、いざそうなってみると、物価が高くなって暮らしにくくなったと。以前は病院も学校も無料だった。贅沢しなければなんとか生きていけたと。今は金があれば何でも手に入る。金のある人は自由を謳歌できるだろう。でも金がない人は昔以下の生活になることもある。そう感じた。

 

「踊る熊」は保護センターで自由を満喫できただろうか。

 

共産主義から資本主義になることも、EUの一員になることもメリットばかりに光が当たる。作者はキューバウクライナアルバニアエストニアなどを訪れてデメリット即ち影の部分や人々の本音を捉えている。

 

セルビアコソボでは国や人種は憎み合っているが、個人的には幼なじみや友人としてつきあっていることを知る。そりゃそうだよな。イデオロギー上は分断していても、実生活面で分断していてはお互い生きていけないだろう。

 

2010年財政危機のギリシャ。人々の怒りの矛先はドイツに向けられていた。

「なぜならドイツがギリシャの財政管理の失敗を非難したからだ」  

国民性が真逆の国だけどEU加盟国。一時期はEU離脱かと騒がれていたが、
ブレグジット(EU離脱)したのはイギリスだった。


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