ラブクラフトが憑依する

 

 

『狂気の山脈にて クトゥルー神話傑作選』H・P・ラブクラフト著 南條竹則編訳を読む。「ラブクラフト選集」の第2弾。短編もよいのだが、『狂気の山脈にて』、『時間からの影』にしぼって紹介。

 

『狂気の山脈にて』
地質学者でミスカトニック大学教授、ウィリアム・ダイヤ―は南極大陸探検に出た。そこで生物学者レイクから巨大な山脈を発見したという連絡を受ける。別動隊は山脈を調査。


山腹の地下の洞窟に入ると未知の生物の化石が大量にあった。バージェス頁岩*どころではない大発見。さらに「14体もの巨大な標本」を入手する。レイクがメスを入れる。動物でもあり、植物でもある。それは『ネクロミコン』に記載されている「大いなる古きもの」ではないか。


ダイヤ―たちが綿密に調べると有史以前に高度な文明が築かれていたことを知る。南極の厳しい自然環境。「狂気の山脈」とは一体。


同じ南極を舞台に不気味な異星人と出くわす。映画『遊星からの物体X』の原作である『影が行く』ジョン.W.キャンベル.ジュニア著がある。これはこれで十分に怖いのだが、『狂気の山脈にて』は、怖さのくどさが違う。そびえ立つ山々、「大いなる古きもの」、デコラティブな建築物などの描写が過剰で読んでいて、これは何なんだとめまいを覚えた。

 

本文中にも出て来るが、ポーの『アーサー・ゴードン・ピム』にインスパイアされたとか。

 

*バージェス頁岩《Burgess shale》カナダのロッキー山脈にあるカンブリア紀中期の地層。1910年代から1930年代にかけて無脊椎(せきつい)動物の化石が多数発見された。
1970~1980年代の再研究によって、新種の節足動物や既存のどの動物門にも入らない動物が数十種も判明し注目された。

バージェス頁岩とは - コトバンク出典:小学館デジタル大辞泉より

 

『時間からの影』
ミスカトニック大学ナサニエル・ウィンゲイト・ピーズリー教授は、「突然虚脱症状に襲われ」倒れる。記憶喪失となったのだが、目覚めた教授は別人のようだった。なぜかそれまで知り得なかったことが口をついで出る。それは「「大いなる種族」と精神を交換された」のだった。


いわば「異星物」に身体を乗っ取られた教授は異次元空間の旅人となる。「もう一つの人格に取り憑かれていた」教授と妻は離婚する。


大学に戻るが症状は回復しない。幻視なのか夢なのか。知らない場所にいる。しかも仮想ではなくリアルに。教授の症例を書いた論文を読んだ人から手紙と写真が届く。西オーストラリアにある「巨石建造物」の遺跡だった。


ダイヤ―教授らと息子のウィンゲイトと彼の地を訪ねる。どうやら乗っ取られた後遺症が悪夢や幻影、幻視をもたらす。

 

soneakira.hatenablog.com

 

 

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不滅の「構造主義の言語学」

 

 

ソシュール言語学 コトバはなぜ通じるのか』町田健著を読む。

 

ソシュール言語学というと「難解」が枕詞だけど。
本作はソシュールから始まった「構造主義言語学」の流れが
わかりやすく書かれている。
それと、コトバの果たす役割を改めて知ることができる。

 

以下メモ。

 

「事物が体系を作り、事物の性質が体系に含まれる他の要素との関係で決まってくるという考え方は、単語の意味だけではなくて、社会制度でも建築物でも、さらには人体を作っている諸器官についても、広く適用できる一般的なものです。つまり『関係性』という性質は、事物一般の性質を見極める際には非常に有効な手段だったというわけです。」

 

「構造」は「体系」と近似値であるとも。

ゆえに構造主義は不滅であると。
構造主義というコトバは古びてしまったが、その概念は古びていない。

本なら新訳とか新版とか、音楽ならデジタルリマスターとかそういうことかな。

 

言語学は「公理から出発して定理を証明し」、それをリフレインしていく
「演繹」ではなく「帰納」であり、それは「関係性」であると。ふむふむ。

 

「コトバは経済的にできている」の章は大いにナットクした。

たとえば昨今流行の「韓流」。このコトバがなければ、
「『冬ソナ』がきっかけとなって、韓国ドラマ、韓国の俳優、歌手が日本、
特に中高年女性に人気を集め、ビデオ、CD、DVDはもとより、
韓国『冬ソナ』ツァーなど一大ブームを巻き起こしている」などと
いちいち説明しなければならないわけで。

 

ソシュールのいう「コトバは形相であって実質ではない」。
それは「コトバが意味を表す記号である限りは、実質ではないというのは
当然のことだ」と。


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飼い猫に手を焼く

読みかけの本ばっかでレビューは後日。
てなことで「猫ちゃんニュース!!」(byハライチ 岩井 )。

 

ケージに移したとき、わずかな隙をついて脱走した猫。
保護猫でケージで飼われていたそうだ。

しばしの自由を家の中で味わう。

落ち着き先が階段下の物入れ。
階段下の物置部屋に住まわされていたハリーポッターを思い出す。

家族の不在時に置いてあるエサを食べる。
シンク下がトイレになった。

 

今度は綿密な捕獲計画を立てる。
アマゾンで防護盾は注文しなかったが。

 

作戦開始。抵抗する、暴れる。
子猫じゃないので動きも敏捷、すばらしいジャンプ。
二人がかりでやっと捕獲する。息があがる。

ネットの上から抑え込んだが、引っ掻かれた。
仰向けだった。うつ伏せにしないと。軍手では甘かった。
アマゾンでペットグローブを見る。

 

夜中、猫はひとりストライキ
ようやく落ち着いたのか寝床の下に潜り込んで
爆睡している。

 

似ている猫がパッケージに描かれているキャットフードを買って来た。
愛玩用じゃなくて観賞用。ま、それでもいいさ。

再びケージから見事脱出した暁には、
天功と命名しよう。

f:id:soneakira:20201213142711j:plain

こんな感じの猫です

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反バートルビー

 

新編 不穏の書、断章 (平凡社ライブラリー)
 

 

『[新編] 不穏の書、断章』フェルナンド・ペソア著 澤田直訳を読む。

 

『ホテル・アルカディア』石川宗生著の参考文献をみたら
フェルナンド・ペソアの名があったから。

詩人であり作家でもあるペソア
散文や断片の連なり。
ウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』やキェルケゴールの著作を
思いうかべたが、
哲学者の作品にはよくみられる形式。

 

プロフィールを読んで驚いた。

本名以外に別名義で「作品を発表」していたとか。
ペンネームを使い分ける作家は珍しくはないが、
まったくの「別人格」。職業も生い立ちも違っていると。

多重人格なのかな。
訳者あとがきで「26歳の時」「突然名状しがたい忘我に襲われた」。
オートマティズム状態で短時間で「50篇以上もの」いろいろな人の詩が
できたと。

 

ペソアは貿易会社で「ビジネスレターを書く」書記(筆耕)を生業として、
空いた時間を執筆にあてたそうだ。
「労働者傷害保険協会」勤務のカフカみたい。

かのメルヴィルの小説『書記バートルビー』みたいに仕事は拒まず、
きっちり9時5時をこなしたようだ。

 

アフォリズムぽいのもあれば、ブログにのっているようなものもある。

「不穏の書」は、完全にアフォリズムっぽい。
「断章」は、散文。ロラン・バルトっぽいところも。

適当に見繕って引用。

「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分ではないことの告白である」(「不穏の書」12)

 

「私はひたすらやり直すことで人生を過ごしている。―だが、どこからやり直すのか」(「不穏の書」92)

 

 

「私には友情の才能があったとは思うのだが、友だちを持ったことが一度もなかった。友だちになりそうな人がいなかったためかもしれないし、友情に関する私の考えが夢の間違いだったからかもしれない。私はいつも孤独に生活した。さらに孤独になれば、私は自分をもっとよく発見することだろう」(「断章」70)

 

生前刊行されたものはわずか、膨大な作品は死後発見されたそうな。

池澤夏樹の巻末エッセイがすばらしい!

 

関連レビュー

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ぼくの好きな先生

 

ハンナのいない10月は

ハンナのいない10月は

  • 作者:相川英輔
  • 発売日: 2020/05/26
  • メディア: 単行本
 

 

『ハンナのいない10月は』相川英輔著を読む。
ミステリー風味の短篇連作集。

 

ハンナは正徳大学の森川先生の研究室で飼われている猫の名前。
森川先生は学内での出世には興味がない。

ユニークな授業で一部の学生にはウケている。

 

少子化の時代、大学も今後の入学者確保には頭を痛めている。
正徳大学では何者かが潜入してスパイ活動をしていて不審な事件が続く。
学長以下正体を突き止めようとする。なぜかそこに森川もメンバー入りする。

 

意外にも名探偵ぶりを発揮する森川。
といっても凄惨な事件は起こらず、ほんわかとした読後感。こんな内容。

 

『ひとつがふたつに』
就活で単位不足となった佐藤。担当教員の森川に単位取得をお願いに行く。
すると、クイズに当たったら単位をあげると言われる。

 

ポルトガルの言い伝え』
研究室で猫を飼っていることに抗議に来た小山庶務課長。そのとき、停電となる。
数日後、富川学長が訪れる。猫好きの学長は「内部犯」による「学内機密の漏えい」を
話す。停電も関連しているのか。捜査の手伝いを依頼する。

 

自治会選挙と夜の星』
この大学は自治会活動が活発。学生自治会長選挙では現会長と対立候補が競り合っている。選挙後、不正があったという噂が。真相の解明に当たる。

 

『化石』
森川が行きつけの定食屋。妻を亡くし意気消沈した店主。時間が止まった化石のような食堂。森川が同僚や学生たちを連れてくる。にぎやかな雰囲気。止まった時間が再び動き出す。

 

『激しい雨が降る』
自治会長に選ばれた仲の「私服が盗まれる」。前会長の三田村も同じ目にあった。
悪い悪戯か事件か。防犯カメラをチェックすると。

 

『ハンナのいない10月は』
森川に「出席不足者に単位を与えた」というゴシップが流れる。炎上した彼は大学を
辞めることを考えるが。騒動の合間に研究室から姿を消したハンナ。はたして見つかるのか。

 

大学を舞台にしたミステリーというと奥泉光の『桑潟幸一准教授』シリーズがあるが、
トーンとしては北村薫の『空飛ぶ馬』あたりかな。

 

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疑似家族においても子は鎹(かすがい)になるのか

 

 

イエスの学校時代

イエスの学校時代

 

 『イエスの学校時代』J・M・クッツェー著 鴻巣友希子訳を読む。
『イエスの幼子時代』の続篇。

 

巻頭の引用が利いている。

「一説によれば、後篇がうまくいった例しはない。
ドン・キホーテ』後篇第四章」

父親役のシモン、母親役のイネス、子ども役のダビード
犬のボリバルは、わけあって逃げ延びて農園で働くことになる。
好奇心旺盛な6歳のダビードはシモンに鋭い質問する。
例えばダビードには本当の両親がいない。だから孤児だと。
シモンはみな過去をリセットしてこの国に移ってきた。
血は繋がっていないが一家として暮している。ゆえに孤児ではないと。

 

ビードの教育のために家庭教師をつけるが、うまくいかない。
「農園のオーナー」からダンスアカデミーを紹介される。

独特の教育理念に疑惑を抱くシモンだが、行かせることにする。
農園から学校までは距離があり、再び街へ。

 

シモンは生活費を稼ぐためにポスティングの仕事に就く。
イネスは「ブティックの販売員」になる。

ダンスアカデミーに寮があることを知ったダビード
「寄宿生」を申し出る。言ったらきかないダビードは、寮住まいを始める。

 

子どもがいないと二人の関係がぎくしゃくし出す。
つーか家族であっても夫婦の関係はない。
特にイネスはマヌカンの仕事にやりがいを見出したし。
突飛な発言や行動に出る子どもを育てるよりは楽しいかもと。

結局、離れて暮らすことになる。


ダンスアカデミーを切り盛りしている美しいアナ・マグダレーナ。
アカデミーの「美術館の主任美術館員」ドミトリー。寄宿舎?
この二人が後半のいわば主役といってもよいだろう。

 

ビードはダンスの才能があるらしく、アナ・マグダレーナや
ドミトリーとも仲良しだった。

ドミトリーはシモンと同様ブルーカラー出身らしく
実直なシモンに同じニオイを感じる。

 

アナは恋の火遊び相手とドミトリーを見ているが、
ドミトリーはガチだった。

やがて不幸な事件が起きる。
殺人犯となったドミトリー。能弁。それをなぜかかばうダビード。能弁。
結果的にかくまうシモン。寡黙。
原罪とは、贖(あがな)いとはをなんか考えさせられる。

 

シモンはバラバラになりそうな家族をまとめるために奮闘する。
シモンはつらいよ。

疑似家族においても子は鎹(かすがい)になるのか。

 

てなことで『イエスの死』へとつづく。
まさか、ダビードが。早く日本語版を読みたい。

 

関連レビュー

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コロナ禍の2020年のクリスマスソングは、これ!

 

ぜったくん - 「Gaming Party Xmas」Music Video


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https://www.youtube.com/watch?v=06jRQhPg3aU

 

 

 

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