バートルビー症候群と診断されても「その気になれないのですが」

 

 

『乙女たちの地獄-H・メルヴィル中短篇集-1』
ハーマン・メルヴィル著 杉浦銀策訳を読む。
以下感想をば。

 

バートルビー

ある法律事務所で筆耕(書記)の求人広告を出した。
やって来た男がバートルビー。地味でおとなしそう。
真面目に仕事に取り組んでくれそう。
「入社3日目」に仕事を言いつけると、
できないと。「その気になれないのですが」の一点張り。
通常、仕事が嫌ならば自ら辞めるのだが、
出社はする。一番早く出社して一番遅く退社する。
心変わりしたけと仕事を注文すると、また「その気になれないのですが」。
真正困ったちゃん。やがて主のように法律事務所に住み込む。
しかし、仕事はしない。職場は好きらしい。
バートルビーは結局、事務所にいられなくなる。
余りにも不条理、悲し過ぎるバートルビーの人生。

 
『エンカンタダス―魔の島々』 

エンカンタダスは現在のガラパゴス諸島。人の来訪を拒んでいるかのように過酷な自然環境。
かつて船員として得た知識や実際に見たことから群島、各島の歴史や地理上の特徴を丹念に描写している。
こんな引用を。

「アルベマール島の人口
人間…0 蟻喰い…未詳 人間嫌い…未詳 蜥蜴…500,000 蛇…500,000 蜘蛛…10,000,000 山椒魚…未詳 悪鬼…未詳 合計…11,000,000」


まさに『白鯨』の作者ならではの人外魔境の不気味な海洋物語。

 

『二つの教会堂』 

「その1」ではニューヨークの「新築の教会堂」が舞台。忍び込んで追い出された男が再び忍び込んで大胆にも鐘を鳴らす。捕まり、裁判にかけられる。
「その2」ではロンドンの教会堂が舞台。「その1」の男が運よく職にありつけ、ロンドンに渡る。ところが、ロンドンで予定していた仕事はなくなる。途方に暮れる「私」。芝居を見た後、教会堂をねぐらにすることを考える。異国のあたたかさを知り、「故国」の冷たさを知る。

 
『独身男たちの楽園と乙女たちの地獄』 
1.独身男たちの楽園
「ロンドン市の西端」にある。「僧院のようにも」思える楽園。
そこに「消え失せた」はずの聖殿(テンプル)騎士団が。
「テンプル法学院」は、居心地の良い環境。素晴らしいご馳走とシャンパン。「よき談話」。まもなく最高の晩餐は「お開き」となる。男たちの理想の避難所。マジか。

2.乙女たちの地獄
ニューイングランドの巨大な森の「山腹」にそびえ立つ製紙工場。
「種屋商売」をしていた男は種袋や封筒などを直接発注して経費節減を図ろうと、
工場を尋ねる。工場にはうら若き乙女たちが機械の奴隷のように働かされている。
休みもろくにない劣悪な環境。アメリカ版「野麦峠」か。


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