『[新編] 不穏の書、断章』フェルナンド・ペソア著 澤田直訳を読む。
『ホテル・アルカディア』石川宗生著の参考文献をみたら
フェルナンド・ペソアの名があったから。
詩人であり作家でもあるペソア。
散文や断片の連なり。
ウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』やキェルケゴールの著作を
思いうかべたが、
哲学者の作品にはよくみられる形式。
プロフィールを読んで驚いた。
本名以外に別名義で「作品を発表」していたとか。
ペンネームを使い分ける作家は珍しくはないが、
まったくの「別人格」。職業も生い立ちも違っていると。
多重人格なのかな。
訳者あとがきで「26歳の時」「突然名状しがたい忘我に襲われた」。
オートマティズム状態で短時間で「50篇以上もの」いろいろな人の詩が
できたと。
ペソアは貿易会社で「ビジネスレターを書く」書記(筆耕)を生業として、
空いた時間を執筆にあてたそうだ。
「労働者傷害保険協会」勤務のカフカみたい。
かのメルヴィルの小説『書記バートルビー』みたいに仕事は拒まず、
きっちり9時5時をこなしたようだ。
アフォリズムぽいのもあれば、ブログにのっているようなものもある。
「不穏の書」は、完全にアフォリズムっぽい。
「断章」は、散文。ロラン・バルトっぽいところも。
適当に見繕って引用。
「文学は、他の芸術と同様、人生がそれだけでは十分ではないことの告白である」(「不穏の書」12)
「私はひたすらやり直すことで人生を過ごしている。―だが、どこからやり直すのか」(「不穏の書」92)
「私には友情の才能があったとは思うのだが、友だちを持ったことが一度もなかった。友だちになりそうな人がいなかったためかもしれないし、友情に関する私の考えが夢の間違いだったからかもしれない。私はいつも孤独に生活した。さらに孤独になれば、私は自分をもっとよく発見することだろう」(「断章」70)
生前刊行されたものはわずか、膨大な作品は死後発見されたそうな。
池澤夏樹の巻末エッセイがすばらしい!
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