クオリア学序説―「脳の中の1000億の神経細胞の活動から、クオリアに満ちた私たちの意識がどう生まれるか」

 

 


『脳の中の小さな神々』    茂木 健一郎著 歌田 明弘 聞き手を読む。

 

相変わらず、脳ブームらしい。腸活の方がブームか。脳関連の本が多く刊行され、TVの特番などでも取り上げられることが多くて、脳研究もかなり進んでいるのかと思ったら、この本を読んでみると、そうではなかった。「表層の脳の反応」あたりのほんの入口がわかってきたが、「脳の深部」は、いまだ未知の「暗黒大陸」だと知り、正直、驚く。

 

テクノロジーも科学もおんなじで、蓄積されたものを改良、ブラッシュアップ、ヴァージョンアップさせながら進んでいく方向のものと、予期せぬまったく新しいもの-それこそ突然変異のごとく-のものとに大別される。

 

たぶん脳科学をワープ(あるいはアウフヘーベンあるいは脱構築)させるキーワードが茂木のいう「クオリア」である。

 

手短におさらい。「クオリアとは、もともとは『質』を意味するラテン語」で「チョコレートを舌にのせたときのまろやかな甘さ」「もう何年も会っていない友人のことを思い出すときにこみあげるなつかしさがクオリアである」。


ただクオリア自体は「物質の長さ、重さ、速さといった性質のように数で表わすことができない」。「クオリア」と「ニューエイジ」だのいわゆる精神世界との類似性や影響を指摘されて、茂木はきっぱりと否定している。そうだったんだ。

 

換言すれば、「クオリア」という答はある。しかし、その答にいたるまでの解析法、万人が納得する科学的見地からの解き方を作者は模索している。ようやく、そのことがわかった。

 

「あるドリルをやって脳のある部位を鍛えたってだめで、肝心なのは有機的なシステムのなかでその人の知性がどうなのかということなのですね。いまの日本の脳研究にはそういう視点が欠けちゃっていてすごく残念です」

 

「人間の感情というのはひと言でいえば不確定に対処するためにできているんですね。感情という不確定なものを通すことによって、人の反応を分散化させている」

 

(この説明もまだ困難とのこと、でも、やっぱり、精神世界っぽい。中沢新一がいっても違和感ゼロ)などのように随所に刺激的な考えが聞けるのも、聞き手の歌田の丁寧な質問ぶりがなせることなのだろう。のべ13日間にもおよぶインタビュー、要所をおさえたまとめ方が茂木の「クオリア」の概念の理解を促進させる。

 

作者の本を何冊か読んで漠としていた「クオリア」及び「脳の中の1000億の神経細胞
の活動から、クオリアに満ちた私たちの意識がどう生まれるか」など彼が解明しようとしているものの果てなく長い道(ロングアンドワインディングロード)をうかがい知ることができる。


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