『人生ミスっても自殺しないで、旅』 諸隈 元著を読む。
ヴィトゲンシュタインを神のように崇める著者が、ヴィトゲンシュタインゆかりの国々をあてもなくさすらう旅。 その土地土地を訪ねてヴィトゲンシュタインを追体験する。
それは本や映像では感じ取れないものがあるだろう。
「「いつも自殺することを考えたが、度胸がなかったのを恥かしく思っている。自分がこの世で無用の存在であるのを知りながら、卑劣にもそれを無視してきたからである」というのは若き日のヴィトゲンシュタインの言葉である」
太宰治の「生れて、すみません。」にも似てるかも。余談。
こう書くと、なんか難しいカタい本だと思われるかもしれない。さに非ず。
大学は出たものの自宅にひきこもる作者。小説を書きあげて公募したが、見事落選。社会復帰の第一歩として書店でアルバイトをする。気楽な実家暮しゆえ、両親、特に父親の厳しい目を気にしつつも、バイト代を細々と溜め込んでヨーロッパに旅立つ。
トラベルにはトラブルがつきもの。クレジットカードが街角のATMでつかえなかったり、ATMからカードが出て来なかったり。とはいえ、困った時は父親(の財布)が頼り。
だってクレジットカードは父親名義の家族会員カードだもの。
最初は「聖ジャイルズ寺院」へヴィトゲンシュタインの墓参り。次に、ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ。「有名な「火かき棒事件」」(下記エントリー参照)の現場となったH3号室へ。
アイルランド・ゴールウェイから「バスで1時間かかる」田舎ロスロへ。かつてヴィトゲンシュタインは、コテージに住んでいた。寒さに震えながら、彼を想う。
旅は続く。
ルーマニアは野犬と美女の国。「サラエヴォからザグレブへ行くバス」で最初は風貌で中国人と見られ、差別的な態度を取られたがパスポートで日本人とわかると手のひら返しで愛想がよくなった。など旅先でのエピソードが、たまらない。
やむにやまれずの野宿もどんと来いって感じ。意外と神経が太く、体力があるのは学生プロレス出身だからかな。
貧乏旅行ゆえホテルは1泊日本円で五千円まで。安くあがったら、その分をプラスしていいホテルに泊まる。作者は風呂派ゆえバスタブ付きをのぞむが、「イエス!」と言われて部屋に入って浸かろうかと思ったら、シャワーのみ。
思った以上にヨーロッパでは英語が通じないエピソードが出て来る。同感。かつてザルツブルグからウィーン行きの特急電車を待っていたら、イタリア人の男性から「この電車はウィーン行きか」と英語で訊かれた。おそらく英語が通じる人がいなくて東洋人のぼくにダメもとでたずねてきたのだろう。
作者はヴィトゲンシュタインの生誕の地・ウィーンを賛辞している。同感。蛇口をひねると正真正銘、本家「アルプスの天然水」が出て来る。んまがったと東海林さだお風に。音楽、美術、宝石のような旧市内。離れると、ウィーンの森。リピーターになった作者が羨ましい。今は、奥さんと行っているらしい。
意外にも痛快、爽快な読後感。作者のような欧州旅行は、経済的に厳しいので、
せめては、ザッハトルテでも食しながら この本でも読んでみん。