「身銭を切る」って?

 

 『身銭を切れ 「リスクを生きる」人だけが知っている人生の本質』
ナシーム・ニコラス・タレブ著 望月 衛監修  千葉 敏生訳を読む。

久しぶりに読むタレブ。


学際的知識をあえて時折ゲスな言い回しで語るタレブ節は、この本でも絶好調。

 

「身銭を切る」というと、まず、会社の経費ではなく自腹で払うことを思う。

ところが、著者はこのように述べている。

 

「単なるインセンティブの問題と誤解しないでほしい。金融の世界でよくいう利益の分配の話ではなくで、むしろ対称性の問題だ。いわば損害の一部を背負い、何かがうまくいかなくなった場合に相応のペナルティを支払うという話だ」

 

干渉屋*1ってネゴシエイターのことだと思うが、彼らは成功すれば成功報酬をもらうが、失敗した場合には交渉不成立の違約金は払わない。つまり身銭を切らない。それはいかんと。投資評論家は自分の読みが外れても、その通り株式を買って損をした投資家に保証はしない。「身銭を切らない」人々をタレブはこっぴどく批判する。

死を覚悟して布教につとめたイエス・キリストや決闘で21歳で亡くなった天才数学者ガロアを身銭を切った人と賛辞する。


損失に「身銭を切る」ことは「破滅」的なリスクを防ぐことができるとか。
失敗も「身銭を切る」ことの一つだろう。

「身銭を切る」がイマイチピンとこない人には「顕示選好」*2がほぼ同義だと。


かなり濃い本ゆえ最初は面白いところを拾い読みして、二度目以降徐々に精読していけばいいと思う。面白いところの一例。

 

「身銭を切ることによって直接ふるい分けられることのない活動やビジネスでは、専門用語を知っていて、専門家っぽく振る舞い、表面的な知識に精通していても、肝心の中味についてはまったくわかっていない人々が大多数を占める」

手厳しいが言えてる。

コロナ禍などで「身銭を切る」政治家はこの国にはいるのだろうか。


「*1干渉屋
自分が世の中の仕組みをわかっていると思い込み、脆さを生じさせる人間。彼らは身銭を切っていないので、現実によってふるい分けられることもないし、自制を利かせることもない。また、普通はユーモアのセンスにも乏しい」(巻末の用語集より)

 

「*2顕示選好
ポール・サミュエルソンが考案した理論であり(当初は公共財の選択という文脈で)、
経済主体は自らの行動の根拠を完全には理解できないという説。行動は観測できるが、
考えは観測できないので、考えを厳密な科学調査に用いることはできない。経済学の
実験では、経済主体の実際の支出を調べる必要がある。デブのトニーは、「口で言うのはいつだって簡単さ」と端的にまとめている」(巻末の用語集より)

 

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