ホラーの宝石箱やあ

 

 



20世紀の幽霊たちジョー・ヒル著 白石 朗ほか訳を読む。

 

もし、怖い小説で最も好きな作品を一つだけあげよと問われたら、そうさな…ヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』をあげる。映像だったらデヴィッド・リンチ監督の『ブルーベルベット』のオープニングかな。またはこの本にも登場してくるジョージ・A・ロメロ監督の『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』とか。

 

純文学のホラー文学化とホラー文学の純文学化が叫ばれているが、あるいは純文学とホラー文学の結婚(マリアージュ)とか。その最たるものの一つが、この作品といえるだろう。短編がぎっしりと詰まっているが、どれとて同じ味わいはない。七色の変化球の如く、読み手を手練手管にとってしまう。小うるさい読み手は、すぐに自分が過去に読んだことのある作品から分析・判断しようとするが、似て非なるもの。

 

短篇とてそこに使われる素材やスパイスは、たぶん長篇と変わりはないはずで。作者は、惜しげもなく短篇に仕上げるために、枝葉を切り捨てていく。むろんベースには、ホラーがあるんだけど、多彩な味付け。ともすると素材やスパイスにこだわりすぎて、それこそ複雑怪奇な味わいになってしまうものも、たまにあるが、そんなことはなくって、都市伝説と括ってしまえる題材を、文学に昇華させていく。

 

霊感といっしょで異界の入り口も、見える人には見える。霊感なぞ持ち合わせていないぼくは、この作品を万華鏡のように扱って異界を愉しむ。

 

スティーブン・キングチルドレンと銘打とうと思ったら、ほんとのチルドレンとは。ぼくは、スティーブン・キングのは幾度となくトライしたけど、ワンポンドステーキのように分厚く途中でギブアップしてしまった。こっちはちょうどよい。いやあ実に小説巧者。村上春樹も嫉妬するだろ、きっと。

 

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