等身大の科学とは

 

 

 

寺田寅彦と現代 等身大の科学を求めて』池内了著を読む。


寺田の著作は、岩波文庫から出ているものは、ほとんど読破した。そのたびに、新発見や再発見があり、文字通り目からウロコがポロポロと何枚も落ちた。池内の手になるこの本は、寺田の著作から寺田の科学への思索、はたまた現代の科学への影響・功績をさぐるというもの。CDでいえば鋭敏なライナーノーツで、まさに寺田科学を検証するのには、適宜な書き手といえよう。

 

ガラスの割れ方や金平糖のできかたなど有名な寺田の実験や観察、洞察が複雑系、フラクタクルなどにつながっていると述べている。

 

「街上で神輿が不規則な運動をしている状態はブラウン運動と似ているし、百貨店の売上高と日々の売り上げとの相関や地震と漁獲量の関係、銀座通りを歩く人の統計から『平均人』の歩行経路の推定など、いろいろな問題が考えられる。寺田は、専門家の間で、このような手法が疎んじられていることを憂い、『科学の進歩を妨げるものは素人の無理解ではなくて、いつでも科学者自身の科学そのものの使命と本質とに対する認識の不足である』と断じている。」

 

金平糖に関しての作者の説明。

 

金平糖(あるいはクラウン・リンク)に角が生えるのは、糖分が集積する過程で球の表面に小さなゆらぎが生じ、それが不安定(ゆらぎが原因となってますますゆらぎが成長すること)によって増幅するためである」

 

「等身大の科学」とは。

 

「日常身辺にはさまざまの科学の種が潜んでいるのである」


作者は「それを『等身大の科学』と呼んでいる。サイズが等身大で、研究費も等身大で、誰でもが参加できるという意味でも等身大である科学として、気象や気候、生態系、地球環境問題などを対象とするのである。これらはすべて『複雑系』であり、多数のデータを何年にも渡って集積する必要がある。また、これらに共通するのは「『循環するシステム』という点」である。

 

また、「文系の知と理系の知を結び合わせ、二つの文化を再度撚り合わせる『新しい博物学』」が必要であると。良きお手本が、寺田寅彦なのである。

 

「雪の研究は、弟子の中谷宇吉郎が引き継いだ」

 

寺田の生きた時代と中谷の生きた時代の違いが、そのまま両者の科学観への違いとなっていることを知る。広島・長崎に落とされた原爆をリアルタイムで体験し、第二次世界大戦後の米ソ冷戦状態を知れば、(アメリカに留学経験のある中谷は親米派だったそうだが)やはりペシミスティックな気分が中谷に大きな影を落とすわけで。と、容易に想像できる。


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