文人物理学者 寺田寅彦―『吾輩は猫である』の水島寒月のモデル

寺田寅彦随筆集 1 (岩波文庫 緑 37-1)

寺田寅彦随筆集』(岩波文庫)の第一巻目を読む。

 

科学者でありながら名エッセイストの誉れ高き作者のありようは、大げさにいえば、理と文系の統一のさきがけ。作者にならえば科学と芸術か。文学の師が、夏目漱石

 

最初の『どんぐり』でKOされた。亡き妻と一粒種の子どものどんぐりをめぐる所作・物言いが似ているというものなのだが、まるで短編小説の秀作の味わい。

 

いつかレビューにしようと思っている藤枝静男の『悲しいだけ』が、亡き妻を題材にした小説のベストだと決めつけていたが、それに比肩するできばえ。藤枝も市井の眼科医だったな。理系と文系を兼ね備えた作家の一人。ムダがなく、理知的で、その上、ユーモアまである。

 

丸善三越では、都電と魚河岸があった頃の日本橋が描かれている。かつてその界隈で1年間毎日通いの仕事をしていた。昼休みぶらついていた場所の昔の話なので興味深く読んだ。丸善はいい書店だし、日本橋三越本店の威厳ある佇まいはさすがと思った。

「不思議な事に自分は毎年寒い時候が来ると哲学や心理がかった書物が読みたくなる。いったい自分の病弱な肉体には気候の変化が著しく影響する。それで冬が来ると
からだは全くいじけてしまって活動の力が減退する代わりに頭のほうはかえって
さえて来て、心がとかくに内側へ向きたがる、そのせいかもしれない」

 

禿同(「激しく同意」の2ちゃん用語)。

 

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