対話の愉しさ、面白さが味わえる。知的セッション、10番勝負

 

 

『知の変貌・知の現在 中村雄二郎対話集』中村雄二郎著を読む。

 

作者は対話の名手である。たぶん、それは、作者が聞き上手なのだろう。自分のフィールドとは異なった人と語り合う。作者はそれを「他流試合」と称しているのだが、そこが対話の妙。思わぬ方向に話が脱線してしまったり、お互いふだんは接していないだけに、異ジャンルから新たな発想を引き出したり、なんとなく自信がなかった考えが、一歩推し進めることができたりもする。

 

また、ふだん、かなり難解な文章を書かれる人も、対話だとそうはいかない。話し言葉なので、予想外にわかりやすかったりもする。

 

本書の対話者は、文芸評論家、哲学者、西洋中世史研究、比較宗教学、密教学、哲学研究、免疫学、解剖学、醸造学・醗酵学、漢方医学と多岐に渡っている。その中から、個人的に興味を抱いた箇所を引いてみよう。

 

作者は時代を超えてもその新鮮さを失わない西田幾多郎、西田哲学について着目しているのだが、

「(西田哲学は)難しいところは分からないが、分かるところがあって、その分かるところに、非常に魅力があると思うのです。翻訳ではない、われわれ共通の日本人の心に訴えるようなものがある」(哲学者下村寅太郎)  

 

僧侶であり、比較宗教学者でもある町田宗鳳との対話では、禅を海外に広めた鈴木大拙を再評価している。そしてフーコーの『狂気の歴史』を取り上げ、

「近代人には狂いの認識が欠けている。だからこそ異常人が急増している」(町田) 

と話している。

 

プロフェッサースメルこと小泉武夫との対話では、抗菌グッズや朝シャンなど「自分の匂いを消していく」現象について

 

「人間本来の匂いが失われれば、将来は、自分の防御本能がなくなって、まず生きること自体困難になってくるんじゃないかという気がしています」(小泉)

 

漢方医学の寺澤捷年との対話では、医療では

「人間が持っている自然治癒力を大切にしたい。生命体はもともとホメオスターシスのシステムを持ってるわけですから」(寺澤)

と述べている。

かなりいいノリでトークが弾み、こちら側にもその雰囲気が十分に伝わる。知的セッションとでも言えばいいのか、いいカンジで読むことができた。欲を言えば、それぞれの対話がもう少し長ければと思う。倍ぐらい部厚くても構わない。いいところで、フェイドアウトしている。残念だ。


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