「レディ・アストロノート」の憂鬱

 

 

 

 

今週の電車本。
『宇宙(そら)へ』(上)(下)メアリ・ロビネット・コワル著 酒井昭伸訳を読む。

 

「1952年、巨大隕石が落下」。「アメリ東海岸」はもとより世界各国で甚大な被害が出る。いわゆる「歴史改編SF」。朝鮮戦争が起こっていたが、それどころではないと米ソは自国の復旧に取り組む。

 

エルマは夫ナサニエルとともに命からがら逃げ延びる。エルマは飛び級したほどの数学の天才。「数学の博士号」を持ちながら、第二次世界大戦では戦闘機のパイロットだった。夫は「ロケット科学者」。


現在、「計算手(コンピューター)」である彼女。隕石落下により地球が温暖化、最悪、人間が住めない環境になることを計算で予想する。アメリカだけではなくて世界は新たな移住先として「宇宙開発」が急務となった。

 

エルマは常に紅一点的存在として男社会と闘ってきた。数学は男子大学生よりもできる。パイロットとしての能力も男性より高い。しかし、女性ゆえ素直には認められなかった。できるゆえに彼女は女性差別に苦しむ。壊れる寸前のメンタル。結婚してなんとかうまく付き合ってはきたが。

 

ひそかに彼女は宇宙飛行士を目標にする。しかし、宇宙というだけで女性には不向きだと上層部はNGを喰らわす。民間というよりも趣味で飛行機を操縦している女性たちと知り合う。

 

「有人宇宙飛行に成功」。次のステップへ進む。

 

ようやく女性にも宇宙飛行士の道が開ける。弾道ミサイルV2の開発者で戦後アメリカのロケット開発に尽力したフォン・ブラウンと出会う。ユダヤ人であるエルマは同朋を大量虐殺したナチスの一員だった彼に複雑な思いを抱く。彼は「プロパガンダとしての女性宇宙飛行士」に賛成する。

 

エルマは「レディ・アストロノート」と呼ばれ、広告塔で有名人となる。

 

ようやく女性宇宙飛行士の候補者に選ばれる。そこに黒人女性がいないことが非難を浴びる。厳しいトレーニングやセクハラまがいの水着での訓練。戦闘機パイロット時代から知る元宇宙飛行士パーカーとの軋轢。夫の励まし。審査が進み、選ばれた者、選ばれない者との気まずい空気。

 

テンポ良く話は進む。エルマは記念すべき月着陸プロジェクトの宇宙飛行士に選ばれる。ただし、「司令カプセル」で待機。月面着陸は2人の男性宇宙飛行士。

 

宇宙から見た地球の描写が感動的。おいおい、ここでおしまい。と思ったら、堺三保の解説によると本作は連作らしい。つかみの「巨大隕石」も途中からはさっぱりだし。続篇の翻訳を首を長くして待とう。

 

SF扱いだが、女性宇宙飛行士のビルドゥングスロマンであり、女性の友情物語とも読める。夫との夜のロケット行為はサービスカットか。


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