ラブクラフト・ラブ

『H・P・ラブクラフト 世界と人生に抗って』
ミシェル・ウエルベック著 スティーブン・キング序文
星埜守之訳を読む。
 
ラブクラフトの評論、これがウエルベックの処女作とは知らなかった。
にしても、ラブクラフトウエルベック、キングの3点セットとは。
ラーメン、半チャーハン、餃子の3点セットぐらい、大好物。
 
キングの序文から引用。
 

「あらゆる文学、とりわけ怪奇幻想文学は、読者と作家の双方が人生から
身を隠すための地下室である。―略―まさのこのような地下室―このような避難所―のなかで、わたしたちは自分の傷を舐め、外の現実世界での次の闘いに備える。逃避文学の読者の誰もが言うように、このような場所へのわたしたちの欲求は決して収まることはないが、そうした場所は、子どもの想像力から、より洗練され体系だった大人の想像力への発展が生じているような、危うい年齢を通過しつつある真摯な潜在的読者―そして作家―にとっては、特に価値がある。一言でいえば、そのような年齢に、創造的な想像力は羽毛のように生え替わるのだ」

 

子どもの頃の宝物や不思議な出会いを大人になっても捨てられない、忘れられない。
見つかると捨てられたり、一笑に付されたりするので心の地下室にしまい込む。
そして時折、こっそり地下室に入り込んで、愉悦の時を過ごす。
 
ウエルベックの文章には、ラブクラフト・ラブ―ややこしいが―があふれている。
毒もたまにまき散らす。たとえばフロイトを「ウィーンのいんちき医者」と評したり。
どっか引用しよう。
 

「伝統的な小説は、ちょうど、水の中で萎んでゆく古いチューブに喩えることができる。そこで目にされるのは、体液が化膿して滲み出すように、全体から弱々しく空気が流出する様であり。最終的に行き着くのは、凛として気まぐれなつまらない物でしかない。ラブクラフトはといえば、このチューブの、一切姿を覗かせてほしくない一定の場所(セックス、金銭…)に力強く掌を押しあてる。これは、絞めつけのテクニックだ。その結果、
彼が望んだ場所において、力強い噴出、イメージの驚くべき開花が得られる」

 

ラブクラフトは死後、作家として知られた。生前は貧乏を高貴な精神性で乗り越えようとしたが、結婚は生活苦、彼が金を稼ぐには不適格で破たんした。
 
小説で描かれている建築は魂が宿っているようにおどろおどろしい。モデルにしたヨーロッパの大聖堂や教会を見る機会はなかった。実物ではなくイメージをふくらませて描く建築物。だから過剰で歪曲されている。性行為にさまざまな妄想を抱く少年のように。
 
ラブクラフトへの賛辞。
 

「偉大な情念はどんなものでも、それが愛であれ憎悪であれ、最終的には本物の作品を生み出すことになる。―略―ありふれた失望の連続に過ぎなかったかもしれぬ彼自身の生活が、外科手術となり、さかしまの祝典となる」

 


ラブクラフトの引いた線の延長上にスティーブン・キングがいることは当然知っていた。そこにウエルベックがいたとは。

書きますた。
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