じわじわと脳内が恐怖液で満たされていく

 

アメリカ怪談集 (河出文庫)

アメリカ怪談集 (河出文庫)

  • 発売日: 2019/10/05
  • メディア: 文庫
 

 

アメリカ怪談集』荒俣宏編を読む。

新大陸アメリカ。現状を打破しようとヨーロッパ各国から移民した様々な人たち。
信仰している宗教が白眼視されるので新天地で布教に賭けようとする人たち。
アメリカ先住民(ネイティブ・アメリカン)の文化や風習。
あるいはカリブ海の島々やニューオーリンズで信仰されているブードゥー教
ゾンビもここから。

そんな

「土壌から芽吹いたアメリカ合衆国の怪奇幻想文学

から目利き師が選りすぐった怪談集。

例によって好きなものを何篇か選んで紹介。


『牧師の黒いヴェール』ナサニエル・ホーソーン著 佐藤清訳
『緋文字』で知られる作者。いつも黒いヴェールをかぶった牧師フーパー氏。
恐れられたり、忌み嫌われたり。その素顔は噂となる。「臨終」間際、ヴェールを取ろうとするが、必死に抵抗する。
デヴィッド・リンチの『エレファントマン』をなんとなく思い浮かべた。

 

『忌まれた家』H・P・ラヴクラフト著 荒俣宏
その屋敷は

 

「もともとは半ば農家づくりの建物が」「18世紀中葉に一般的なニューイングランド植民地風な建てかたに改められた」

ところが、そこは幽霊屋敷だった。長年借り手がつかなかった屋敷を「わたし」と医師である「叔父」が調査する。持ち主に伝播する死の影。地下室が怪しいと「軍用火炎放射器」などを用意して入る。
叔父はなぜかフランス語を話しながら亡くなる。叔父の顔が次々と歴代の関係者の顔に変わる。「地下室にひそむ邪悪な存在」とは。
ゴシックホラーを踏まえながら、さらにこれでもかと執拗なホラーの手数で次元を超えた世界を現前させる。くどく、しつこく、じわじわと脳内が恐怖液で満たされていく。怖れ入りやした。

 

『木の妻』メアリー・エリザベス・カウンセルマン著 野間けい子訳
恋に落ちた少年と少女。彼女は「婚約間近」。二人は駆け落ちする。二人だけで結婚式を挙げている最中、少女の父親に見つかり、少年はライフルで撃たれ絶命する。少女は老いた「伝道師」に遺体をカシの木の下に埋めるよう懇願する。

彼女は妊娠していた。世にも稀な少女とカシの木との結婚式が執り行われた。女の子が生まれる。女の子はカシの木を「パパ」と呼ぶ。娘に高い高いをするカシの木の枝って。

 

『寝室の怪』メアリ・W・フリーマン著 野間けい子訳
家業の薬屋をたたんで得た資金で下宿屋を開くことになった「エリザベス・へニング夫人」。購入した家が実は事故物件だった。夫人は下宿経営がはじめてゆえろくにリサーチもしないで手持ち資金で賄えるので買ってしまった。しまった!と思ったときは、遅かった。
「三階の廊下の突き当りの」格安の「ホール・ベッドルーム」では失踪者が続いていた。この部屋を借りたウィートクロフト氏の日記にそのおぞましい異様な体験が書かれている。

 

『邪眼』イーディス・ウォートン著 奥田祐士
百物語ではないが、晩餐に招かれたゲストが食後、怪談や「霊的な体験談」を話す。
最後に主人のカルウィンが話すのが、この物語。伯母の家に呼ばれ眠っていると、

 

「ベッドの下から光が」「やがて私を睨む一対の眼となった」 

 怖ろしさと彼に好意を抱いている従姉から逃れるため、アメリカから欧州へ。
イタリアで従姉から作家志望の若者を紹介される。イケメンだが、文才はない。
面と向かって言えなかったが、ようやくそのことを知らされた若者は去る。
その夜、欧州では一度も出なかった邪悪な眼が現れる。ナイスなオチ。

と思う矢先、三度邪悪な眼が。


『ほほえむ人びと』レイ・ブラッドベリ著 伊藤典夫訳 
ブラッドベリというとSF、ファンタジー小説の大家という印象だが。なんと、デビューは雑誌『ウィアード・テールズ』がホームグラウンドの「恐怖小説作家」だった。
「グレッピング氏」以下一家4人揃っての夕食。ほほえましい食事のシーンが警察官の来訪で台無しになる。オチがとてつもなく怖い。う、うまい。

 

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