『青ひげ夫人と秘密の部屋 -「見たな」の文学史-』千野帽子著を読む。
「青ひげ」というと、真っ先にジル・ド・レを思いつく。卒論でジョルジュ・バタイユをテーマにしたのだが、著作の『ジル・ド・レ論―悪の論理 』を読んだからだ。
ジル・ド・レは、ジャンヌ・ダルクとともにフランスを救った英雄だったが、ジャンヌ・ダルクが火炙りで処刑された後は、子どもの大量虐殺犯、サイコキラーとして余生を過ごす。
著者は、「青ひげ」=ジル・ド・レを否定する。
数か所引用。
「「青ひげ」を書いたのはペロー」(詩人、『ペロー童話集』の作者)
「「眠りの森の美女」「赤頭巾ちゃん」「青ひげ」「長靴をはいた猫」」などの作者。
「ペローはアプレイウスの「クピドとプシュケの物語」(2世紀ローマ)を中心に、その他の先行作品群をパッチワークして「青ひげ」を生み出した」
リミックスというのか、二次創作というのか。
「「青ひげ」の二次創作には、青ひげ被害者型、男女逆転型などもある」
「『ジェイン・エア』『レベッカ』のルーツはおとぎ話「青ひげ」」
だそうだ。
「青ひげ」のはじまりから、いかに青ひげ的なるものが、後世の文学や映画、漫画などに多大な影響を与えているかを論じている。「青ひげ」の裾野は富士山のように広いらしい。
怪談などでおなじみの「決して(部屋の)中を見てはならぬ」と言われたのに、つい見てしまうと、死体がゴロゴロ。あ、青ひげ!で、「見たな」というお決まりのパターン。
『ケアの物語 フランケンシュタインからはじめる』小川公代著が、フランケンシュタインのミームを述べていると書いたが、いみじくも、この本は青ひげのミームを系統樹的に踏まえたものでもある。
著者は青ひげ大喜利といっているが、青ひげあるあるもある。で、いつものようにブックガイドとしても魅力的。またまた読みたい本が増えた。
「あたしたちが面白がって、善いことも悪いことも、みんな青髭のせいにしたの、青髭が青髭がって、しょっ中使ったのね」(庄司薫『ぼくの大好きな青髭』)
