『アラバスターの手 マンビー古書怪談集』A・N・L・マンビー著 羽田詩津子訳を読む。
「書誌学者・ライブラリアン」だった著者が、捕虜となって空き時間に捕虜収容所内で発刊される雑誌に投稿した作品などをまとめたもの。どれもM・R・ジェイムズ風味の伝統的な「英国怪奇小説」。ファンには、たまらない。怪談もよいが、奇想譚もよい。
何篇か、かいつまんで紹介。
『甦ったヘロデ王』
主人公は古書マニアの男子高校生。とある古書店に入る。店主は店を案内してくれる。店主が目を離した隙に勝手に部屋に入る。そこには青髭ジル・ド・レの本が。
無断で入ったことを怒る店主。しかし、再訪を許す。
再び店に行くと、地下室で手を洗いにいったとき、鍵をかけられる。
必死に助けを求める。開けたのは老牧師。
この恐ろしい体験を夢で見る。行方不明となっていた15歳の少年が遺体で発見される。
『アラバスターの手』
ケンブリッジ大学の同級生で名ラガーマン。現在は牧師をつとめている
トラヴァースから呼び出された「私」。彼は病床に伏せていた。
祭壇の墓に素晴らしい「アラバスター(雪花石膏)の像が横臥していた」。
不可思議なことが次々と起きる。アラバスターの像の手には秘密があった。
『トプリー屋敷の競売』
トプリー屋敷を相続した甥のダントン。屋敷内の絵画類や家具などの鑑定を依頼する。彼は、代々伝わった大切な家財を即刻、金に変えたかった。
地所管理人の意向も無視して競売にかけようとした。
ご先祖のトプリー提督の肖像画に異変が。同刻にダントンが亡くなる。
妹夫婦が新たな相続人となり、競売は中止。
地所管理人の身分もトプリー屋敷の行く末も安泰。めでたし、めでたし。
『霧の中の邂逅』
地質学が趣味の男。ウェールズの山を調査中、雨と霧により迷子となる。
さて、どうしようかと思ったら「コリー犬」連れの老人が現われる。
ウェールズ語はできないので身振り手振りで迷ったことを伝えると
地図を出して下山ルートを教示してくれた。謎の老人の正体は。
柳田國男の山人論が頭をよぎった。
『聖書台』
休暇中の「私」。ある廃屋に出くわす。かつては立派だと思わせる屋敷や庭園跡。
牧師から屋敷の持ち主プランドル家の謂れを聴く。
「民兵とボランティア兵」を率いたプランドル。
兵隊たちは乱暴・狼藉を働いて「聖書台」まで略奪する。
「聖書台」を屋敷に置いてから良からぬことが起きる。
返却しようとしたが、ついに届かず。プランドル家は滅亡したとさ。
英語に精通していた岡本綺堂は、英国怪奇小説を原書で読んでそのテイストを
『半七捕物帳』などに翻案させていたそうだ。
作品によっては、その語り具合が綺堂に通じるものがある。
そう感じるのは、ぼくだけではないだろう。
怪談はこれだけ。あくまで書誌学者の余技、暇つぶしらしい。もっと読みたいのに。
そう思うのは、ぼくだけではないだろう。