Shadow&Gohst Twist&Shout―祝文庫化

 

 

 

『街とその不確かな壁』村上春樹著を読む。

 

「第一部」17歳の「ぼく」は、16歳の少女と恋をする。ところが、その彼女は影で本当の自分は壁に囲まれた街にいると。「ぼく」は、本当の彼女に会いたいとその街に行く。彼女と同じ図書館で古い夢を読む「夢読み」の仕事に就く。ここでは影を持った人はいない。運よく別れた影と会える。恋は彼女の方からフェイドアウトしていく。影が「死にかけて」いる。「私」は、望み通り影と一緒になることを選ぶ。それは、この街を出るということ。壁は何のメタファーなんだろう。カフカの『城』とかを思わせる世界。影というと河合隼雄経由ユングになってしまうのだが。

 

「第二部」大学進学で上京した「私」。編集者になりたくて就職は出版社を希望したが、かなわず。取次の会社に入る。キャリアを重ね、それなりの地位に。いまだに少女のことが忘れられないのか、独身。ふと図書館の仕事がしたいと思い、退職。会社の後輩から紹介された福島県会津地方の町営図書館長に転職。面接したのは子易前館長。ベレー帽になぜかスカートといういでたち。運営をしきる司書の添田。図書館は子易が寄贈したもの。以前は酒造工場だった。コーヒーショップの女性ともなじみとなった。彼女はバツイチ。移住して店を開いた。いろいろ助言や世間話をする子易だが、実は…。「私」と添田にしか見えない。図書館の常連の少年。いつもイエロー・サブマリンのヨットパーカーを着ていた。サヴァン症候群らしく手当たり次第に本を読んでは片端から記憶していく。彼が私に手紙をくれた。それは、壁に囲まれた街の手書きの地図だった。なぜ、彼が知っている。イエロー・サブマリンの少年が行方不明となる。壁に囲まれた街へ旅立ったと私は思った。

 

「第三部」少年を追って再び、私は街へ。図書館には少女がいる。16歳のままで。少年は「夢読み」になりたいと私に。


引用:イエロー・サブマリンの少年との会話-1
「壁は緻密に積み上げられた煉瓦でできている。とても高い壁だ。ずっと昔に積まれたものらしいけど、傷みや崩れのようなものはどこにも見当たらない。信じられないくらい丈夫にできている。誰もその壁を越えて中に入ってはこられない。そういう特別な壁なんだ」

ベルリンの壁は崩壊したが。

 

引用:イエロー・サブマリンの少年との会話-2
「そして壁は、すべての種類の疫病を―彼らが考える『魂にとっての疫病』をも含めて―徹底して排除することを目的として、街とそこに住む人々を設定し直していった。いわば街を再設定したんだ。そしてそれ自体で完結する、堅く閉鎖されたシステムを作り上げた。君が言いたいのはそういうことなのか」

 

引用:「ガルシア=マルケス、生存と死者との分け隔てを必要としなかったコロンビアの小説家。何が現実であり、何が現実ではないのか?いや、そもそも現実と非現実を隔てる壁のようなものは、この世界に実際に存在しているのだろうか?壁は存在しているかもしれない、と私は思う。いや、間違いなく存在しているはずだ。でもそれはどこまでも不確かな壁なのだ。場合に応じて相手に応じて堅さを変え、形状を変えていく。まるで生き物のように」

生者と死者、男性と女性、大人と子ども、健常者と障碍者、現実と非現実、先進国と発展途上国、光と影、敵と味方、その間に存在する壁、バリア。


村上マジック・リアリズム。もやもやは晴れないが、読んでいる間は、楽しかった。豊かな気持ちにしてくれた。この長さは必然。もっと長くてもいいくらい。

 

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