渋谷クロニクル―栄枯盛勢

 

 

ラブ&ポップ トパーズ2』村上龍を読む。    

 

風俗は風化する。今を捉えようとするが、捉えた瞬間、今はすでに過去のモノとなってしまう。しかし果敢にも言葉でそれに挑み続けている作家がいる。村上龍である。彼は深い海の底に息を潜めるアンコウのように貪欲に自分の触覚で感じたものを胃袋におさめる。彼にとってはワインも、サッカーも、きれいなネエちゃんも、経済も、アルマーニの服も同じ価値なのだろう。

 

かつて川端康成は『浅草紅団』で昭和初期の盛り場浅草の空気や雑踏の匂いを言葉で記そうとした。残念ながら最後まで読むことはできなかったが。村上龍は、渋谷センター街を闊歩する女子高校生にスポットを当てた。携帯電話、プリクラなどトレンドセッター(発信人)といわれる彼女たちが、今のこの国では最も象徴的な存在だからだ。

 

私立高校に通う仲良し4人組、彼女たちの渋谷でのごく日常的な行動を徹底的に追っている。実際、かなりの取材をしたようだ。何人か取材をして、話を聞くうちにその素材をダイレクトに構成するだけで十分にイケると思ったようだ。彼の取った手法は、ルポルタージュ…。といってしまったが、今ひとつピンと来ない。この面白さが伝えられる言葉がなかなか見つからない。もどかしくなっていたら、ぴったりの言葉があった。「リミックス」である。様々な音源から自分の気に入った部分を拾い上げ、新しい音楽に仕立て上げる。

 

彼は女子高校生たちの五感に伝わるものをくまなく捕まえようとしている。ファーストフードショップ、カラオケボックス、テレクラ、伝言ダイヤル、ファッションテナントビル。そしてそこにたむろするサラリーマン、ホモセクシャルなど多彩な人々を絡めて、きわめてざっくりと下世話に、ホットに、大づかみで展開している。援助交際もこの世界では、なぜか自然のことのように思えてくる。

 

確かに文章や構成はラフかもしれないが、一気にまとめあげたスピード感がたまらなく心地よい。散文詩のロングバージョンといってもお門違いではないだろう。モダンジャズに造詣の深い彼に讃辞を与えるなら、いいインプロヴィゼーション(即興)である。その軽やかさがポップなのだろう。

 

庵野エヴァンゲリオン”秀明が本書を映像化したことも読了後、納得できた。

 

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