これでもか、これでもかと露わになる人間の暴力性、卑しさ

 

 

『大丈夫な人』 カン・ファギル著 小山内 園子訳を読む。


人は理性や知性、常識でコーティングしているが、それがひょんなことで剝がれると
野生、いや、野蛮、粗暴さが顔を覗かせる。見たくはないけど、当事者でないなら、
見たいという、9作からなる短篇集。

 

各篇に出て来る人物が一見常識人なんだけど、途中から、地金が現われたりして。それが、かなり怖い。以下5篇のあらすじや感想などをば。

 

『湖-別の人』 
友人ミニョンが湖で何者かに襲われ重体となる。彼女の恋人とその湖畔に行くことになったジニョン。最初から気乗りしなかったが、後悔は募る一方。ミニョンの体には沢山の傷があった。今回の事件だけのものとは思えない。彼は筋肉質の高身長。湖に着いて彼は湖底を探り始める。何かを見つける。ジニョンには彼がレイプ犯という疑惑が拭えない。

 

『ニコラ幼稚園-貴い人』
名門ニコラ幼稚園に息子ミヌを補欠入学することができた。40代半ばのエロカッコいい園長が出したクッキーにはがっつく息子。ふだんは引っ込み思案なのに。母親は、かつてハングルが読めないまま小学校に入学した。意地悪な担任の先生は彼女にわざと音読させた。その先生が死んでいたという友人の話。先生の手首には赤い疵があった。同様に園長先生にも疵がある。さらに保育士から園庭に埋められていた黒猫の話も聞く。お受験ものなんだけど、読んでいくうちに、もやもや、ざわざわしてくる。

 

『大丈夫な人』 
格差婚の話。玉の輿はめでたいとされていたが。婚約者は弁護士。アメリカの大学を出たエリートで、アメリカで暮らすはずだった。ところが、両親が韓国で交通事故に遭って亡くなる。路線変更。韓国で暮らすことになる。「私」ミンジュは、「爪に火を灯す」人生。出会いは紹介。しかも彼は代理だった。周りはラッキーと言うが。彼が買った家を案内することになった。アクシデント続きのドライブ。非の打ちどころのない彼。しかし、結婚していいのか。うまくできるだろうか。ためらいがちな「私」。なんで?

 

『虫たち』
マルチ商法に騙され莫大な借金を背負った「私」スジ。友人のヒジンと、格安の家賃のイェヨンの家にルームシェアすることになる。ヒジンは同居していたDV男からの避難所だった。イェヨンの部屋を貸す条件は他の部屋を詮索しないことだった。しかし、二人は好奇心から覗いてしまう。イェヨンは、どちらかが今月末で出て行ってほしいと言われる。悪臭が立ち込めるイェヨンの部屋を開けると白い虫の大群が襲って来た。ヒジンに声をかけられる。逃げるヒジン。追いかけてヒジンを突き飛ばす。流血している彼女を1階の部屋に閉じ込める。ところが、彼女はいなかった。それから、イェヨンに、スジをよろしくとの手紙が届いたと。イェヨンに白い虫がたかる。彼女は手慣れたように虫をあしらう。虫が象徴するものは。


『手』
夫が単身で海外赴任することになり、先生をしている「私」は娘のミナと夫の母の家で暮らすことになった。このところ、「パンッ」という音が聴こえる。正体は不明。義母の家も村の習わしも学校もなれないことばかり。

「「ところでお義母さん、『手(ソン)』ってどういう意味なんですか?」
「悪鬼のことを言うんだよ、悪鬼。村に入ってきて、人に悪さをしたり邪魔したりする女なんだ。その女のいない日に、大事な初物の豆を茹でるってわけさ」
夫の海外赴任が延びることになる。学校の女子トイレに落書きがあって生徒全員に居残りを命じる。何もかもがムカつく。彼女のストレスもピークに。爆竹のように「パンッ」という音が連発で聴こえる。

 

乱歩いうところの「奇妙な味の小説」で括ってもいいだろう。
イヤミスという言葉にならえばイヤホラー。


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