幻想的で、前衛性の高い初期短篇集

 

 

『水晶幻想・禽獣』川端康成著を読む。


『掌の小説』川端康成著、吉村貞司の解説から引用。


「ボオドレエル、マラルメヴェルレーヌなどに畏敬されたヴィリエ・ド・リラダンは、きわめて鋭角的に人間性に切りこみ、内臓をえぐり、骨を削る。そのゆえに彼は短編集に「残酷物語」と名づけた。リラダン風の作品を三島由紀夫氏に見ることができる。しかしもっともリラダン風を感じさせるのは、川端康成先生の掌の小説である」

 

この短篇集にもつながっている。初期の作品だそうで前衛性が高く、幻想的あるいは病的な世界。表題作を紹介。


『水晶幻想』
妻の三面鏡に映っている温室風の建物。それは発生学の研究をしている夫の動物生殖の実験室だった。妻の父親は産婦人科医。夫婦にはなかなか子どもができず、密かに人工授精を試みたが。妻は血統書付きの犬を飼っていた。高額な金額は犬の交配の費用から捻出するはずが、死んでしまう。生と死。命。今日的なテーマが表現されている。
「アミイバには死がない。美しい象徴だよ。親もなければ、子もない。男もなければ、女もない。兄もなければ、弟もない」なんかSFっぽいし。


『禽獣』

独身の「彼」は、これまで飼っていた犬や鳥たちの死を思う。その視点が動物好きというよりも獣医師のような怜悧かつ客観的。彼はいまは踊り子となった千花子のショーを見に行く。彼女との心中をかつて考えたこともあった。彼女を見る彼。なぜか動物を
見る眼差しよりも冷たい。この一文にぞっとした。
「動物の生命や生態をおもちゃにして、一つの理想の鋳型を目標と定め、人工的に、畸形的に育てている方が、悲しい純潔であり、神のような爽やかさがあると思うのだ。良種へ良種へと狂奔する、動物虐待的な愛護者達を、彼はこの点の、また人間の悲劇的な
象徴として、冷笑を浴びせながら許している」
純潔と純血。作者が愛玩動物と写っている写真は何度見ても異様な気がする。

 

川端康成愛玩動物たち

 

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