はじめのバタイユ はじめてのバタイユ はじめてでなくてもいいけど

 

 

『はじまりのバタイユ    贈与・共同体・アナキズム澤田直編 岩野卓司編 を読む。


「七つの顔を持つ男」は、多羅尾坂内。映画では片岡千恵蔵が変装してさまざな人になりすますが、いかんせん、あの独特の声。実際なら、いくら変装に凝っていても、丸わかりだろう。


ジョルジュ・バタイユもいわば「七つの顔を持つ男」。文学者として捉えるのみでは実体はわからない。つべこべ述べるよりも、まえがきからの長い引用で。

 

「20世紀フランスの思想家・作家ジョルジュ・バタイユは、文学、哲学、宗教学、経済、人類学、美学など多くの分野で足跡を残している」

二刀流ならぬ何刀流なんだ。


「彼の書いた小説は、モーリス・ブランショやサミュエル・ベケットと並んで後のヌーヴォー・ロマンの先駆けとして評価されたのみならず、ジャンルを越境する破壊的な言語活動は、「作者の死」を言明したテクスト理論や「ブルジョアエクリチュール」を
解体する詩的言語活動による革命の発想にも大きな影響を及ぼした」

 

「エロスとタナトスは、バタイユの主たるテーマのひとつであるが、『マダム・エドワルダ』をはじめとするエロティックな小説や、『エロティシズム』などの論考は、性をめぐる禁忌や侵犯、コミュニカシオン(交流)や存在の連続性について、ヴィヴィッドな問題を提起している」

 

眼球譚』を読んだときは、ぶっとんだ。


「また、ヘーゲル哲学を特異な形で読解し、そのアプローチを逆手にとりながらこの哲学を解体していく彼の手法は、脱構築の哲学とも密接な関係にある」

 

コジェーブにヘーゲルを学んだバタイユだが、一時期、ニーチェにも傾倒していた。


バタイユの仕事がいまなお多くの領域で刺激を与え続けていることはまちがいない」

 

おなじみのところでは、中沢新一酒井健、栗原“アナキズム”康など。あとは、たぶん若手の研究者や大学の先生が、それぞれの専門領域からバタイユを検証、論考を寄せている。これが、実に、知的な興奮を味わえる。

 

「本書は、このように多面的なバタイユの思想のなかで、贈与と共同体のテーマに焦点を合わせたものである」


「贈与に関して彼は、人類学者マルセル・モースの『贈与論』を継承しながら、「全般経済(普遍経済、エコノミー・ジェネラル)」という独自の経済学、人類学の理論を作り上げた。―略―たとえば「太陽によるエネルギーの贈与」という発想は、原子力発電所のような「人工太陽」によって自然を支配しようという考えを批判する際に有効なヒントを与えてくれるとともに、自然の生態系を尊重するエコロジーの発想と呼応する面がある」

 

ちなみにバタイユは『太陽肛門』という作品を書いた。

 

バタイユの共同理論は、―略―ブランショジャン=リュック・ナンシーによってそれぞれのかたちで受け継がれ、さらにはジョルジュ・アガンベンやロベルト・エスポジトなどイタリアン・セオリーの思想家たちもそこを起点に新たな思想を展開している。「財産」や「所有」、さらには既成の集団そのものを根底から問い直すその共同体概念は、再分配の問題やシェアリングなどへの関心が高まるいま、多くの示唆を与えてくれる」

 

バタイユの著作の短評や関連本の紹介などが充実、バタイユ入門本としてぴったり。

 

卒論をバタイユにして書きあぐねていた大学4年のぼくに、タイムワープしてこの本を枕元にそっと置いときたい。

 

人気blogランキング