真相は霧の中、藪の中―消えた遺体たち

捜査 (ハヤカワ文庫 SF 306)

『捜査』スタニスワフ・レム深見弾訳を読む。

 

スコットランド・ヤードの警部補グレゴリイが主人公。スコットランド・ヤードと聞くと、ミステリーファンは胸を躍らせるだろう。彼が依頼された捜査は、最近頻繁に起こる連続遺体盗難事件。冒頭部、ハードボイルドな文章が展開される。


誰が、一体、何のために。同一犯なのか、あるいは模倣犯の仕業か。現場には足跡など有力な物証になり得るものが残っていた。ちょろいと思っていた彼だが、捜査は進展しない。進展しないどころか、新たな遺体盗難事件が起こる。

 

マッドサイエンティストが人造人間をつくるために遺体を盗んだ。宇宙人が地球人を研究するために盗んだ。異星からの新種の病原菌のせい。まさか。SFじゃあるまいし。SFだけどね。

 

主任警部シェパードはグレゴリイの能力を内心では低く評価している。案の定、捜査は行き詰まり、シェパードはシス博士を新たにブレーンに加える。シスは従来の「証拠と動機を追求」する捜査ではなく、統計学的手法で捜査に当たると。たとえば「遺体の盗まれた時間と癌の発生には関連性がある」などなど。

 

さあて、このあたりから、事件は混迷の度合いを深めていく。漫画だったら、各登場人物の頭の上の疑問符が大きくなっていく状態。

 

さすがレム。読み手をどんどん煙に巻いていく。シス博士のような一見素晴らしい理論、よく考えるととんでも理論といったような。ほら話というと誤解を招くが、作者の次々とくり出す謎に、はまっていけばいい。ぼくが敬愛する映画監督デヴィッド・リンチの『ツイン・ピークス』のように。

 

当然、事件の伏線回収もなければ、真犯人や事件の真相の解明もない。ただし、ミステリー度は高い。不条理、ナンセンス。すべてが理にかなった解釈なんてできない。1957年に書かれたそうだが、いかにも作者らしい作品。


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