「灰色の脳細胞」を持つカイゼル髭のベルギー人

 

 

ポアロ登場』アガサ・クリスティー著 真崎義博訳を読む。

 

「名探偵エルキュール・ポアロ」の短篇集。ハンプティ・ダンプティのような体躯の小男のベルギー人。滔々と自慢げに事件の謎や真犯人について口角泡を飛ばす。カイゼル髭もますますエラそうに見える。キャラは最初からこうだった。
助手のヘイスティングス大尉は、事ある度にポアロからお小言を頂戴する。でも、「灰色の脳細胞」の持ち主は、推理は天才でも物言いや行動は常人では理解できないところがあって相棒ヘイスティングスの存在なくして名声は得られなかっただろう。
船酔いするので旅行は嫌い。投資は嫌い。スーツが汚れるので現地調査は嫌い。

不遜、傲岸。誰かに似ている。ああ、「名探偵コナン」だ。禿ずらにつけ髭で「私はベルギー人です、マドモアゼル」とかセリフを吐いてもらいたいもんだ。
14の短編は、ヘイスティングスが書き記した事件簿スタイル。その中から5篇、短くあらすじなり、感想なりを。


『安アパート事件』
ヘイスティングスの友人の知人・女性が一等地ナイトブリッジに格安のアパートを見つけたという。「幽霊屋敷」などの事故物件ではなさそうだ。なぜ?そこにスパイの暗躍が絡んでくる。「灰色の脳細胞」が謎を解く。格安のアパートには理由がある、ご注意を。

 

『エジプト墳墓の謎』
ツタンカーメンの呪い」と同様な事件が起こる。「メンハーラ王墳墓の発見と発掘につづく一連の謎めいた死に関する調査」でポアロヘイスティングスはエジプトへ。苦手な「4日間の船旅」でポアロは、憔悴。ヘイスティングスはエキゾチックなエジプトに魅了されるが、ポアロは砂漠の砂が磨き上げた靴に入るのが気に入らない。彼は呪いや魔法の裏にある真相を科学的に明らかにしていく。1920年代のイギリスでのエジプトブームがうかがえる作品。


『首相誘拐事件』
時のイギリス首相が誘拐された。下院議長たちから首相を探してほしいと。しかも連合国会議が開催される明日までに。ポアロヘイスティングスは、ポアロの知り合い・スコットランドヤードの敏腕刑事ジャップと渡仏する。寝台列車から苦手な船でドーヴァー海峡を渡る。着くや否やイギリスへ戻る。首相は見つかるのか。見つかるさ、彼は事件のカラクリを早々とお見通しだったとさ。

 

『謎の遺言書』
ミス・ヴァイオレット・マーシュは伯父の遺言書の件でポアロを訪ねる。それは奇妙な遺言で運よく隠された遺言書を見つけたら遺産は彼女が相続。ところが、見つからなかった場合は全遺産を「慈善団体に寄付する」と。宝さがしならぬ遺言書さがし。うまいところに隠したのだが、なんとか隠し場所を突き止める名探偵。お茶の子さいさいって顔をして。

 

『チョコレートの箱』
「ベルギー警察の刑事課」に所属していたポアロ。フランスの前途を望まれていた代議士が亡くなる。「自然死」とされたが、殺人ではないかと捜査を個人的に依頼される。解決の決め手は「チョコレートの箱」。失敗談なのだが、反省などはせず。


この本は新訳だそうで、旧訳よりもハードボイルドっぽくなっているそうだ。次はポアロの長篇を。


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