映画を観てから原作へ。そこにあるチェーホフ的なもの

女のいない男たち (文春文庫)

 

『女のいない男たち』村上春樹著を読む。

 

はじめにアマゾンプライムビデオで濱口竜介監督の映画『ドライブ・マイ・カー』を見た。評判に違わぬできばえでぜひ原作が読みたくなった。作家の世界標準が村上春樹なら、いまや映画監督の世界標準が濱口竜介だといってもよいだろう。


さて、『女のいない男たち』というと、なんだか非モテの小説を思われるかもしれないが、村上春樹の作品には、まるでモテない男性は出てこない。

 

正しくは『(いまは)女のいない男たち』あるいは『(いまは)女のい(ら)ない男たち』。

妻を亡くした夫。妻の浮気で別れた夫。思わぬ恋煩いが命取りになった医師などなど。
なんつーか、チェーホフ的。

 

アンハッピーな話なのに、どこか滑稽味がある。仰々しさがなくクールな展開。4篇、紹介。

 

まずは『ドライブ・マイ・カー』から。
俳優で舞台演出家でもある家福。女優だった妻を子宮ガンで亡くす。マイカーの運転手を探していた彼は女性ドライバー・みさきを紹介される。最初はいぶかし気だったが、彼女の運転ぶりに感心させられる。車の中で妻が台詞を録音したカセットテープでチェーホフの芝居『ヴァ―ニャ伯父』(『ワーニャ伯父さん』)の台詞の練習をする。結婚したときは、若くて美しい妻の方が知名度も収入も上だったろう。年齢を重ねるにつれ、彼はシブい個性派わき役として注目を浴びるようになる。子どもを生まれてすぐになくした。妻は競演した俳優と寝ていた。自宅の寝室で目撃したこともある。黙認していた家福。妻の死後、妻と共演していて、寝ていた中年俳優・高槻と懇意になる。バーで飲んで世間話をするだけだが。寡黙なドライバーといつしかお互いの身上を話すようになる。

 

『独立器官』
六本木で美容整形外科医院を経営している渡会は非の打ちどころのない男。金もあり、性格も良く、ルックスもまずまず。優雅な独身生活をエンジョイしていた。愛人は切らしたことがない。ジム通いで身体も鍛えていた。そんな渡会が人妻にマジで恋愛した。ところが、彼女には若い愛人がいて夫と渡会を袖にする。失恋の免疫がなかった渡会。重い恋煩いに罹る。

 

シェエラザード
わけあって隠遁暮しをしている羽原。連絡係の女性が生活必需品などを運んでくれる。シェエラザードと名づけた女性と性交する。その度に彼女はユニークなお話しを聞かせてくれる。「前世はやつめうなぎだった」と言う彼女。高校時代に恋をした男の子の家に忍び込んだ。鉛筆を1本盗んで、その代償にタンポンを引き出しの奥に入れた。次は彼のベッドに横になったり、シャツの匂いを嗅いだり。実話なのか、妄想なのか。


『木野』
体育大学で中距離ランナーだった木野。ケガで実業団入りを諦め、スポーツ用品会社の営業マンとなる。知名度には欠けるが高品質なシューズなどを製造・販売している会社で仕事にも不満はなかった。それが突然、退社する。理由は自宅マンションで妻が浮気をしていたからだ。目撃した彼は、間男や妻をなじることもなく、なぜか逃げるように、会社を辞め、妻と離婚して、マンションを売却。そのお金を折半して、バーを開店する。高齢になった伯母が店を譲ってくれたから。常連には風変わりな男がいる。なんとなく女性客と寝てしまう。彼女はDVを受けていた。店で妻と離婚届に署名して押印した。「ボタンの掛け違い」妻の一言が響く。店兼住まいの庭先に蛇が現われた頃、客から店をいったん閉めてこの地を離れろと言われる。不吉なことを避けるためにも。彼は、伯母の知り合いだった。木野は四国から九州へと当てのない旅に出る。

 

映画レビューは、改めてブログにアップするつもり。


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