ショートショートだが読み心地はロングロング

 

 


『長くて短い一年-山川方夫ショートショート集成-』山川方夫著 日下三蔵編を読む。そっか、これって、山川方夫ショートショート集成の第2弾だったのか。まあ、よろしい。

 

『長くて短い一年』は、カレンダーのように月ごとのショートショート12話でまとめられている。で、2篇がとりわけ惹かれた。

 

『なかきよの…-新年-』
ある老夫婦の物語。老夫は外で飲んで酔って帰る日々。老妻は、半分、眠りながら夫の帰りを待つ。役人だった夫は、定年後、仲人のような仕事についてそれなりの成功報酬を得て悦に入っていた。丁々発止のやりとりは夫婦漫才のよう。妻がうたた寝から目覚める。夫はまだ帰宅していない。実は夫は…。

 

『娼婦-一月-』
主人公は劇団の女優の卵の二人。売れる前の女優は貧乏。トレーニングなどがあるので長時間のアルバイトは困難。手っ取り早く短時間で高給を得るには水商売のバイト。二人は持ち前の美貌をいかしてついにコールガールのバイトを始める。
ある日、劇団で彼女たちはわずかながら台詞のある役をもらう。それは、なんと娼婦の役だった。苦もなく演じられると思ったら、演じることができなかった。なぜなら、演技ではなく本物の娼婦がそこにいた。泣き崩れる二人。ミイラ取りがミイラになった。

 

ショートショートというと奇想や奇譚と思いがちだが、作者のショートショート
人生や人間など普遍的かつ重苦しいテーマを鮮やかに今風に切り取ったもの。

 

『トコという男』
『EQMM(エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン)』に連載されていたエッセイ。これは全集で読んでいたが、再読しても十分に楽しかった。トコという男と私のいわゆる酒場談義。その当時話題となっていたことを俎上にトコが斜めからの見方をしたり、屁理屈を私にぶつける。シニカルな批評眼とおしゃれな物言いが、掲載誌にマッチしていたのではないだろうか。さすがに、リアルタイムでは読んでいない。伊丹十三山口瞳など都会派エッセイに通じる。


山川方夫全集第7巻 朝の真空』についていた月報で堀江敏幸村上春樹の『土の中の彼女の小さな犬』と山川方夫の『ある週末』の共通性について書いている。山川方夫村上春樹に継承されたもの、異なるもの。眼を瞠らされる一文。

 

あと、勝手にぼくが思うのは、向田邦子との共通点。山川方夫 1930年生まれ。向田邦子 1929年生まれ。ま、どちらもラジオやテレビの台本をこなしたのだが、読んでいて、モダン、都会、家族、人生のほろにがさを感じさせてくれる。向田邦子にとって父親や父性は大きなテーマの一つだった。
一方、山川は14歳のとき、画家の父親を失くし、長男として父の代理を務めさせられる。父性喪失。その重みと拘束、責任感。ダブルバインド。書くことでそこから逃避していたのだろうか。

 

小林信彦による「山川方夫のこと」なども載っていてありがたい。しみる文章。


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