ミームってなんだ―「ミームと遺伝子の関係で現代の諸問題を読み解く試み」

 

 

『遺伝子vsミーム―教育・環境・民族対立』佐倉統著を読む。

 

「現代の社会問題の根底には、生命を伝達する遺伝子と文化を伝達するミームの緊張関係がある」。本書は、「ミームと遺伝子の関係で現代の諸問題を読み解く試み」をしているそうだ。昨今話題のミームとその可能性について書かれている。

 

ぼくが書いたこのレビューをあなたがインターネットで読む。読むという行為により、ぼくの心からあなたの心に情報が伝わる。ただ伝わるだけでなく、あなたの心には、何か新たな考えが生まれる。ひょっとして書店へ駆けつけ本書を購入するかもしれないし、友達や恋人にカフェで話すかもしれない。ミームって、こういうことではないのだろうか。

 

ミームの名づけ親、リチャード・ドーキンスは『ブラインド・ウォッチメイカー』の中でこう記述している。

 

ミーム文化は、文化的進化と呼ばれる現象に現われている。文化的進化はDNAにもとづく進化より桁違いに早く進むので、『乗っ取り』ではないかと思わせるほどである」「ミームは、脳から脳、脳から本、本から脳、脳からコンピューター、コンピューターからコンピューターへと広がって行ける。情報のパターンは広がりながら変化する」。

 

「人間は遺伝子のシモベではない」そして「人間の文化(ミーム)は遺伝子から独立している」と。それを成り立たせているのが脳である。上述の反復になるが、「人間は教育と学習によって文化伝統を伝えてくのである」と。「遺伝子とミームのより良い共生」と書いてしまうのは、ワケないが、実際のとこ、どうなんだろう。

 

サブタイトルにあるように、ミームは、かように汎用性があるので、企画書など風呂敷を広げるのには便利なタームだろう。だってケータイだって、チャパツだって、ハヤリものは、みんなミームって言えれば言えるもんね。広告代理店のマーケなんてここ数年はミームの濫発だったりしてね。なんだけど、はっきり言って肩透かし。

 

まあ、なんていうか、特にいま、関心の高い民俗対立の章なんて「人種差別・民俗差別は、遺伝子が生み、ミームが育てる」だって、あったりまえじゃん。確かに、ミームで様々な事象は括れるだろう。「民俗対立を煽る遺伝子を抑制し、否定するミームを普及させることは、絶対できるはずなのだ」と作者は述べているが、共産主義というある種の呪縛が解かれた以降の世界を見ていると、懐疑的にならざるを得ない。そう信じたいのだが。

 

本書は、序論の序論、ほんのさわりといったところだろうか。とまれ、作者がここからどのように掘り下げていくか、一ファンとして楽しみである。

 

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