原始力で生きる

 

 

『ぼくは始祖鳥になりたい』宮内勝典著を読む。    

 

本書には、宇宙の躍動感、地球の生命力、世界との一体感が溢れ出ている。ハイデガー流に述べるなら、世界-内-存在と世界-外-存在を同時に感じさせる作品だ。どう言えばピンとくるだろう。映画『未知との遭遇』のキャッチコピーを覚えているだろうか。「We are not alone.」-これなのである、言いたいことは。

 

作者は求道者のように言葉の力を信じ、真っ向から現代の物語に挑んでいった。これまで『ニカラグア密航計画』、『宇宙的ナンセンスの時代』などのエッセイに表わされていた作者自身が体験してきたことの一切を惜しげもなくぶちこみ、そして余分なものを割愛して、言葉を磨き、世界を構築していった。

 

主人公は、元超能力者。スプーン曲げの少年として、かつて話題になっていた。しかし、いつしかその能力は、消え失せる。宇宙飛行士の募集に応じ、ニューヨークへ行く。そこから彼の冒険が始まる。ニューヨークの研究所からダウンタウン、砂漠、火山からティラノサウルスなど恐竜の化石発掘のアルバイト。インディアン集落での神秘的体験。そこで、シャーナと出会う。

 

まるでRPG(ロール・プレイング・ゲーム)の主人公のように、旅を続ける。様々な人間との邂逅を通して、その面をクリアするたびに、彼のパワーは増幅されていく。やがて、南米の先住民たちのゲリラに参加する。

 

ミクロからマクロ、時空を超え、ともかく、息つく暇を与えないほど、軽快なテンポで話は展開する。身も心も疲れ果てているだの、癒されたいだの、そんな現状をものともせず、自分自身を信じて、誰にも頼らず、迷わず突き進む主人公の行動に、いつしか気持ちがシンクロしていき、とてもポジティブにさせてくれた。元気になれる、エネルギッシュな小説というのは、久々だ。

 

映像や音楽では表現できないものが、みなぎっている。作者は後記で本書を書くにあたり、「日本語で世界文学を書いて欲しい」と言われたことを記している。十分、その要求に応えているとぼくは思う。

 

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