産みの海が、膿の海に。哀しみに満ちあふれたファンタジックで神話的な作品

 

複眼人 (角川書店単行本)

複眼人 (角川書店単行本)

 

 

『複眼人』呉明益著 小栗山智訳を読む。

 

太平洋にある伝説の島・ワヨワヨ島。ハワイ語を思わせる響き。農地が乏しく厳しい食料自給。島民が生存していくために次男以下は一定の年齢に達すると島から出なければならなかった。アトレは島を出る。ようやく流れ着いたのはゴミの島だった。

 

一方台湾人で大学教師であるアリス。デンマーク人の夫と息子が登山に行き消息不明となる。悲観した彼女は憔悴の余り死を決意するが。ゴミの島がアリスの住む台湾東海岸に近づいたことで二人は出会う。最初はまったく言葉が通じなかったが、少しづつ理解し合えるようになる。

 

アトレはワヨワヨ島のことをアリスに話す。

 

ここでノルウェー人で海洋生態学者・サラが登場する。反捕鯨の立場の彼女だが、父親・アムンセンはノルウェーの伝統的な捕鯨の継承者だった。「年に一度巨大な鯨」を捕ることを目標にしていた。「無動力のボート」で「銛(もり)」を使って。50歳を過ぎてカナダでのアザラシ漁に誘われる。「棍棒」で撲殺する。彼にはできなかった。

 

大きな地震が起き、津波が二人を襲う。何もかもを破壊して呑みこむ。東日本大地震のあの恐ろしい津波のシーンを想像させる。台湾で2011年に刊行とあるから、偶然なのだろうか。

 

地球の生態系に大きな問題となっている海洋プラスチック汚染。自然環境を文明化、開発などと称して自分たちの都合で破壊する人間。でも結局、そのツケがまわって苦しむのは人間。それは神の怒りなのか、天の配剤なのか。

 

アリスの夫と息子は山で複眼人と出会う。山の神なのか、あるいは 柳田國男の唱える山人(「山に暮らす先住民の子孫」)のようなものなのか。目が複眼になっていて文字通り複眼的に世の中を見ている。

 

最後にボブ・ディランの名曲『激しい雨が降る』が引用されている。原曲を聴きたくなってYouTubeで聴いた。ジンときた。

 

ディストピア小説に括れるが、哀しみに満ちあふれたファンタジックで神話的な作品。読み終えて深い余韻が残る。

 

表紙装画がとても良い。何てイラストレーターが描いているんだろうと思ったら、
著者自身でした。

 

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