変則バディもの―ハーリ・クィン&サタースウェイト

 

 

『謎のクィン氏』アガサ・クリスティー著 嵯峨静江訳を読む。

 

シャーロック・ホームズとワトソン、明智小五郎と小林少年、鬼貫警部と丹那(たんな)刑事などミステリーには数々のコンビが活躍、事件を解決する。

 

ところが、ハーリ・クィンとサタースウェイトは、ちと違う。両者とも探偵や
警察官ではない。人生経験が豊富なサタースウェイト。「人間観察は得意」なのだが、つい経験値に頼りすぎて事件の本質を見失いがち。するとなぜかどこからともなくクィンが現れる。

 

大抵のミステリ―なら主役は大威張り。助手をボロカスにけなして、真相を長々としゃべる。クィンは違う。ヒントのみを与えて去って行く。今ならLINEで示唆するとか。出しゃばらない。まことに影の薄い主役。


いわば、アンチ・ディテクティブ。これで読ませるのだから。何篇か気に入った作品を紹介しよう。

 

『窓ガラスに映る影』
アンダーソン夫妻のパーティーに招かれたサタースウェイト。パーティーに出る「成金連中」に興味津々。どんな騒動が起きるのか内心ウキウキしている。実はアンダーソン夫妻は幽霊込みで家を購入した。幽霊は特定の「部屋の窓の一枚のガラス」にのみ出るという。ガラスを換えても変わらず出る。パーティー当日、「銃声と悲鳴」が。遺体となった二人。そこへクィン参上。窓ガラスを換えた祟りか。

 

『「鈴と道化服」亭奇聞』
車は二度パンク、おまけに道に迷っていたらなんと三度目のパンクとなったサタースウェイト。急遽、「鈴と道化服」亭に投宿することとなる。すると、そこにはクィンもいた。二人で当地で起きた奇妙な失踪事件をもう一度洗い出すことにする。その推理が素晴らしく隠されていた真実が晒される。

 

『死んだ道化役者(ハーリクィン)』
芸術にも造詣の深いサタースウェイト。彼が購入した「新進画家の絵画」をお披露目がてら夕食会を開く。すると同時に二人から売ってほしいと申し出が。その絵のタイトルが『死んだ道化役者(ハーリクィン)』。絵の描かれた屋敷にはいわくがあるらしい。夕食会にいつの間にやら参加していたクィンが謎解きのきっかけをつくり、サタースウェイトがそれを引き継ぐ。

 

『翼の折れた鳥』
ロンドン郊外のレーデル荘に招かれたサタースウェイト。退屈な降霊会、晩餐会、歌を歌ってお開きとなった。翌朝、メイベルが首を吊っていた。警部が数学者の夫に尋問しても自殺する動機がわからないという。サタースウェイトは偽装自殺だと睨んでいた。
警部も同意見だった。犯行手口を探り、犯人を当てる。ロンドン行の列車でクィン、登場。素敵な置き土産を残して霧のように消えた。


『世界の果て』
吝嗇(けちんぼ)・リース公爵夫人に振り回されるサタースウェイト。冬のコルシカ島へ行く。飛行機なら時短で楽なのだが、運賃が高いと船旅で。荒れる海。サタースウェイトは船酔いでボロボロなのに公爵夫人はへっちゃら。不幸な人を結果助けることになるのだが、まさかコルシカ島でクィンに出会うとは。とにかく公爵夫人がいいキャラ。

 

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