『1984年に生まれて』郝 景芳著 櫻庭 ゆみ子訳を読む。
1984年に生まれた軽雲が主人公。
物語は彼女が生まれるまでの話。両親や祖母・祖父などから当時の仕事や景気などが
書かれている。それと彼女が生まれてからの話。子どもから少女と成長するにつれての友だち、悩みなどが書かれている。この2つの話が入れ子構造となっている。
ヴァージニア・ウルフに代表される「意識の流れ」を敷衍したものなのだろうか。
1984年、「鄧小平の改革開放」により高度経済成長が始まる中国。
その当時の人々の暮らしぶりを子細に描写している。
たとえば彼女が生まれる前に父親が同僚と非合法的な方法で一儲けしようと深圳に行く。深圳は以前はひなびた漁村だったが、香港に近いロケ―ションを活かして
ハイテク都市に変貌を遂げようとしていた。大金はつかめたが、結局、逃してしまう。
軽雲は多感な性格。いつも自身に悩み、進路に迷いながらも成長する。
友人を羨んだり、蔑んだり、十代の自意識過剰ぶりって
誰もがそうだったんじゃないだろうか。
父親は中国を去って世界各国で暮らす。
母親は業を煮やして離婚する。しかし、彼女を通して交流はある。
プラハに入る父親に会いに行く。父親は「海外留学」をすすめ、資金援助を申し出る。
決心がつかない。アメリカでは父親は学生街で中華料理店を経営、彼女も会いに行く。
海外留学はうまくいかず、「統計局」で働く。単調な仕事。
失恋の痛手からか仕事のストレスからか心の病を患う。
自分探しの旅は続く。
仲の良かった同級生たちのその後の人生が記される。
若くして母親になった人、アメリカに留学してMBAの資格を取って起業が目標だったが挫折した人などなど。
ふと、ジョニ・ミッチェル『青春の光と影』のメロディーが浮かんだ。
原題は「Both Sides Now」。この本にぴったりと当てはまる。
生物学的に1984年に生まれた軽雲は、2013年30歳で、ようやくもう一度生まれることができた。アオハルやアホハルにさよならして。
『折りたたみ北京』の作者だし、『1984年~』というタイトルからして、
SFかと思いきやど真ん中の純文学だった。