んでもって読ませる。うまい

 

優しい暴力の時代

優しい暴力の時代

 

 

『優しい暴力の時代』チョン・イヒョン著 斎藤真理子訳を読む。

 

ぽつぽつと韓国の小説を読んでいる。
フェミニズムがクローズアップされているようだが、
実際のところ教育と住宅(不動産)をテーマにしたものが多い気がする。

あとはダメンズ(ヤングマンからミドルマン、オールドマンまで)ね。

 

作者の眼差しが日常生活に沈殿しているものを小説に純化させる。
んでもって読ませる。うまい。


気に入ったものを取りあげる。


『ずうっと、夏』
東京のインターナショナルスクールに通うワタナベ・リエ。大柄ゆえあだ名は「ブタ」。父親が日本人、母親が韓国人。「貿易会社」勤務の父親ゆえ海外転勤族。今度は東南アジアのK国へ転勤となる。そこのインターナショナルスクールではじめての親友メイができる。彼女の国籍が二人を引き裂こうとする。手紙を出す。ようやく返事が来る。友情はあるのか、ないのか。会えないもどかしさ。理不尽さを噛みしめる。


『夜の大観覧車』
ヤンは女子高の先生。会社を退職した夫は再就職する気もなく、家庭内引きこもり状態。娘は弁護士を目指して勉強を継続する。彼女は折に触れリタイアを考えていたが、実質上の大黒柱なのでかなわない夢。規則正しいといえば聞こえは良いが、変わり映えのしない反復のような毎日。高校で「姉妹校の提携を結んだ横浜市訪問の引率者の募集」を知る。手をあげたヤン。横浜といえば、かつての愛唱歌ブルーライトヨコハマ』。甘酸っぱい過去が頭をよぎる。みなとみらいの大観覧車を眺めるヤン。気になる同僚教師。名曲『ブルーライトヨコハマ』が、効果的に使われている。

 

『アンナ』
「博士号を有し、地方大学で講義を受け持っていた」キョン。思い立って「ラテンダンス同好会」に入会する。そこで最年少メンバーのアンナと知り合う。キョンはメンバーと飲みに行って酒場で男性と出会う。結婚、出産、育児。同好会は疎遠となる。「美容クリニック」経営者の妻となったキョン。子どもの「英語幼稚園」のお受験で思いもかけずにアンナと再会する。アンナは補助教師だった。時間は経ったが、お互い変わっていなかった。子どもは発達障害児のようで周囲になじむのに苦労していた。ある日アンナが良かれと思ったことが大問題となる。ママたちの逆鱗にふれ、アンナは「英語幼稚園」からいなくなる。子どもがそれを訊ねる。その一言が泣かせる。

 

『引き出しの中の家』
「チョンセが満期」後、「保証金の引き上げ」を知らされたユウォンとチョン。格安物件を知る。ただし「入居者がいて内見ができない」。同じ間取りの違う部屋を案内され、夫・ユウォンは「買うぞ」と腹を括る。毎月の家賃とローンの毎月の返済額は大差ない。あとは、頭金の工面とか。他の人に契約される前に急げ急げ。契約も無事完了。念願のマイ・マンション。ところが…。なんともほろ苦いラスト。


『三豊百貨店』
作者が青春時代に足繁く通った思い出の百貨店。手抜き工事で1995年に倒壊した。いわば対象喪失の話。いまはなんとかロスっていうけど、百貨店ロス。ぼくも小学生のころ、田舎のデパートを遊び場にしていたので懐かしい感じ。未来永劫光り輝く場所と思われたが、喪失する。ペットロス、恋人ロス、親ロス。失くした思い出は反芻できるが、甘美ではない。その日「臨時アルバイト」で三豊百貨店で働いていた「私」。運よく事故に遭遇しなかった。


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