『去年、本能寺で -The virtual city of Nobunaga-』円城塔著を読む。
日本の歴史にSFを利かせたメタフィクション。しかも、著者は元々理系の人ゆえ、そのあたりの知識も踏まえて煙にまく。いい意味でのほら話。荒唐無稽ぶり。いやはや、その大胆な奇想、奇譚ぶりに「うひょう!」と呟きつつ頁をめくる。
何篇か紹介。
『幽斎闕疑抄』
武将かつ歌人として知られる細川幽斎。確か細川元首相の先祖。その正体がなんと、軍事AIで文事AIだった。それは、歌を詠むことで戦が強くなり、戦で勝つことで歌がうまくなる相乗効果があったとか。
『タムラマロ・ザ・ブラック』
坂上田村麻呂。朝廷に抵抗した東北の蝦夷(ガリア)征伐に成果をあげ、初代征夷大将軍となる。福島県には田村市があるが、確か、田村麻呂に由来しているとか。実は、田村麻呂は黒人しかもカエサルだったという話。そりゃ強いわけだ。ヘイ、ブラザー。蝦夷(ガリア)征伐をしるしたのが『ガリア戦記』。
『宣長の仮想都市』
19歳のとき、本居宣長、当時の名は小津弥四郎。彼は架空の都市「端原」の地図と「端原氏系図」をつくったそうだ。後年、その「端原」に行くことに。仮想と現実が交差する。
『天使とゼス王』
ザビエルの弟子で日本人初のキリスト教徒アンジェロ。身を売られ、悪辣なポルトガル人「山椒大夫」のこき使われるアンジュ。二人はインド・ゴアで出会う。ゼス王はゼウスそして厨子王だと。「山椒大夫」もとい「安寿と厨子王」の改変版。
『偶像』
親鸞の息子・善鸞は「アイドル(偶像)」という歌を歌い、ヒット。文字通りアイドルとなり、布教(ツアー)につとめる。しかし、父はその当世風なやり方が不満だったのか、義絶する。糸の切れた凧のような善鸞の後日談。
『去年、本能寺で』
本能寺の変で自決したとされる信長。ところが転生しては秀吉の策を非難する。さらにさらにさまざまな人物に輪廻転生していく。ゲームソフト『信長の野望』がでてきたのには笑った。もう一つの本能寺の変。
あ、タイトルはアラン・ロブ=グリエの『去年、マリエンバードで』からかな。
