『海風クラブ』呉明益著 三浦裕子訳を読む。
台湾は漢民族とさまざまな先住民族からなる島。その先住民族の一つタロコ族の巨人伝説にフォーカスした物語。柳田国男の「山人」みたいなものか。いやいや、もっとでかい。「山」そのものなんだから。
台湾東部にある風光明媚な海豊村。その山中にある洞窟で少年と少女は運命的な出会いをする。台湾原住民の一部族、タロコ族の少年は逃げた白い犬を探しに。少女は父親に身売りされることを知り逃げて来た。山も洞窟も実は巨人ダナマイの身体だった。そっと二人を見守る巨人。
住民たちがなんとなく集う場所は、いつしか「海風クラブ」と呼ばれるようになった。
少年と少女は再会を果たす。その頃、村に大規模なセメント工場の建設の話が持ち上がる。それまで村ではろくな産業もなく、男たちは出稼ぎに出ていた。セメント工場ができれば用地に土地を売れば金が入る。そばで商売をはじめるのもいいし、勤めるのもあり。出稼ぎに行かなくともよくなる。貧乏から脱却できると。
ああこの図式、原発誘致すれば、雇用促進、地元の活性化につながるというのと同じ。豊かな自然を代償にして豊かな生活を得る。で、住民が工場誘致派と反対派に分断される。「海風クラブ」は反対派の拠点になる。
進撃しない巨人。このまますんなり工場が建設されるのか。おいおい大々的に山を削って工場を建てたら、巨人は、たまったもんじゃないだろう。天の配剤か。どでかい台風がやって来る。旧約聖書の「創世記」に出て来る「バベルの塔」を思わせる。
しかし、セメント工場は完成、稼働している。村も人々にも変化が。「海風クラブ」も閉められた。巨人は大丈夫か。
巨人は自然もしくはエコロジーのメタファーなのだろうか。巨人とコミュニケーションできる三本足のカニクイマングースがかわいい。宮沢賢治の童話の世界やダイダラボッチ伝説にも通じるものがある。
著者が描いた表紙の巨人って、ゴヤかと思ったら、ルドンだった。著者あとがきで知る。制作中の絵本『三本足のカニクイマングースと巨人』も、はよ読みたい。
