「酔拳」にならえば「酔探」か、「ほろ酔い探」か。本格推理の時代劇版

 

 

『菖蒲狂い-若さま侍捕物手帖ミステリ傑作選-』城 昌幸著  末國 善己編を読む。

 

問題です。「五大捕物帳」とは何でしょう。

 

岡本綺堂『半七捕物帳』、佐々木味津三『右門捕物帳』、野村胡堂銭形平次捕物控』、横溝正史人形佐七捕物帳』」とこの『若さま侍捕物手帖』だそうだ。

 

柳橋米沢町、船宿喜仙の大川に沿った二階座敷」。若さまは、そこを定宿に昼から、いいや朝から酒をちびちび吞んでいる。娘のおいとに酌をさせるときも。すると、いつものようにそこへ「御上御用聞き、遠州屋小吉」が、手に負えない事件をもってくる。
というのが、フォーマット。

 

こんな話。3つばかし。

 

『菖蒲狂い』菖蒲作りの名人である父親が丹精込めて育てた菖蒲をわけあって刈った娘。娘は殺される。


雪見酒雪の日、女が殺されていた。しかし、死体の周りには足跡ひとつ、ついていない。


『からくり蝋燭』宴席の最中、突然、蝋燭が消え、琴の検校が刺殺されていた。凶器はどこにもない。


若さまの素性は謎だが、育ちの良さが感じられる物腰と風貌。しかし、ぼんぼんではなく、その場で事件を解くこともある。「酔拳」にならえば「酔探」か。「喰いタン」ってのもあったが。

 

編者解説によると「綺堂はコナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」シリーズ」を江戸の目明しに翻案したもの。『若さま侍捕物手帖』は、ホームズではなく「オルツィの「隅の老人」シリーズの影響を受けている」と。「隅の老人」はロンドンの喫茶店が舞台の安楽椅子探偵シリーズだとか。

 

「城 昌幸がこだわったのがフーダニット*とハウダニット**であること」

ゆえに情景描写や心理描写などを徹底的に排除している。


でも、面白い。ふだんの若さまと違って「犯人はお前だ」というときの鋭さ。意外にも剣の達人でもある。本格推理の時代劇版ってとこか。

 

簡潔でわかりやすい、で、短い。ベストセラーシリーズになったことはわかる。かつて若さまを大川“銭形平次”橋蔵が演じている。リメイクするなら、誰がいいだろう。

オルツィの「隅の老人」、いずれ、読んでみよう。


*「フーダニット(Who done it = 誰が犯行を行ったか)」とは、 推理小説のなかでも、「誰が犯人か?」 を当てることに目的を置いた作品がそう呼ばれる。

**「ハウダニット (Howdunit = How (had) done it) 」とは、どのように犯罪を成し遂げたのかを推理するのに重点を置いていること。 犯人探しではなくトリックの解明を推理する過程を重視した形式で、法廷推理小説におけるアリバイ崩しやトラベル・ミステリにおける時刻表を利用したトリックの解明などが当てはまる。

ブックオフオンラインコラム」より引用


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