『みすてりい』城昌幸著を読む。
掌篇、いわゆるショートショートの先駆けだったそうだ。『新青年』が発表の場というだけあって、テイストは怪奇・幻想なんだけど、洒落ていて、モダン、都会的。散文詩みたいな作品もあったが、作者が「日夏耿之介と西條八十」を師匠に当初、詩作をしていたことを知り、納得。
江戸川乱歩が作者を「人生の怪奇を宝石のように拾い歩く詩人」と述べていたそうだが、いやはや、ぴったり。それにしてもなんて素敵なフレーズなんだろう。
長山靖生の解説によると、
「城はポオやオスカー・ワイルド、リラダンを好んだ。―略―城昌幸には、リラダンやベルトラン(『夜のガスパァル』の作者)流の奇想短篇や物語的散文詩から直接学び直す
ことで小説であれ詩であれ、矮小化されつつあった日本近代文学を再活性化しようとする意思があっただろう」
さらに乱歩はジョン・コリアの『緑の心』や『夜鳥』などモーリス・ルヴェルの怪奇掌編も影響を受けていると。
何篇か、さわりだけ紹介。
『ママゴト』
門前町を散歩した。寺先に荒物屋、呉服屋、酒屋、駄菓子屋、茶店などが軒を並べている。酒屋の御用聞きに聞いたら、そこは「平」という男の地所だとか。男が気まぐれに店主になるという。お店屋さんごっこのデラックス版。
『人花』
園芸に凝った男がいた。久しぶりに訪ねると巨大な花が咲いていた。「牡丹の変種」で「光明界の女王」と男は呼んでいた。近づくと危険だと。その花は生物を溶解して養分に変え成長する妖花だった。男は行方不明になる。彼から手紙が届く。そこには。
『ヂャマイカ氏の実験』
プラットホームで終電車を待っていた私。外国人の男がいた。ホームに転落したかと思いきや、さにあらず。空中を歩いていた。空中遊行術の教えを乞うと外国人・ヂャマイカ氏は否定する。二人は空中遊行の実験を始める。
『スタイリスト』
「3年ほど前に」自殺した友人R氏。彼は墓のない墓地をしつらえていた。クチナシの生垣と松葉牡丹の花壇。命日にはそこにあるベンチで座っていてくれと。ダンディだった友人を偲ぼうとすると、ベンチには日傘を指した美しいご婦人が。恋人かと思ったら、友人の遺族に頼まれたと。彼はこの泰西名画のような光景を見せたかったのか。
『不可知論』
1.ものの影
ロボット(人造人間)とホームオートメーション、オフィスオートメーション、ファクトリーオートメーションの進歩によって人間は労働から解放される。遊興三昧。しかし、出生率は低下していき、人間は滅亡。世界は人造人間のものとなる。って、SFじゃん。
2.死者と生者
心霊現象など世はオカルトブーム。死者の霊は存在するのか。守護霊は、ほんとうにいるのか。ゼット氏との興味深い議論。
3.あなたは誰なの?
輪廻転生(リインカーネーション)がテーマ。ゼット氏がアメリカでの実証例を話す。
輪廻転生を認めると大混乱になること必至。「あなたは誰なの?」「わたしは誰なの?」