新作なのにM・R・ジェイムズの作品?と思える

 

 

『図書室の怪 四編の奇妙な物語』マイケル・ドズワーズ・クック著 山田順子訳を読む。

 

訳者あとがきによると作者は「博士号を取得した」「ポオなどミステリー小説や怪奇小説の研究者」。第一作目の小説とのこと。とてもデビュー作とは思えないほどM・R・ジェイムズに代表される「英国怪奇小説」の伝統やお約束を踏襲している。

 

『図書室の怪』
オクスフォード大学で同級生だったジャック・トレガーデンとサイモン。ジャックは「炭鉱労働者の息子」。サイモンは名家の出だった。階級こそ違えどお互いに惹かれるものを感じ、ジャックもお坊ちゃんたちのバカ騒ぎに興じる。
「中世史学者」となったジャック。サイモンから自邸の図書室の「蔵書目録の改定」を頼まれる。父親の急逝で家を継いだサイモンは画家である妻・ジニーも亡くすなど心身ともに衰弱していた。図書室に足を踏み入れた時、何か不気味なものを感じたジャック。屋敷は元修道院だった。図書室は修道院の書庫。
ジャックはジニーの遺したスケッチと日記をサイモンから見せられる。確かに何かがいる。暗号。隠蔽された謎。ラテン語で書かれたオド修道士の日記。学術的に価値のある稀覯本の発見。おちぶれた家の再興の資金にしようと目論見るサイモン。

エピローグとジャックの息子の追記。これでもかと怪奇とジャック家とサイモン家の不思議な因果関係があらわになる。


『六月二十四日』
駅での転落事故で亡くなった妻・ローラ。大学で教鞭をとっていた夫・マシューは失意の日々を送る。彼は妻と「二十世紀の詩の研究」と鉄道が生きがいだった。新進気鋭の作家だったローラは体調を崩す。
乱雑なデスクまわりを片付け、引き出しを開けるとローラからの誕生プレゼントの包みが。「希少な詩集」と添えられた手紙。病で自殺することが書かれてあった。いたたまれず彼はローラが鉄道自殺した駅へ。
ローラがいた。マシューは轢死するが、いわゆる幽体離脱が起こる、そのさまは不可思議。「希少な詩集」を露店の古書店でローラと店主がやりとりするさまは、古書ファンにはたまらないはず。

 

グリーンマン
グリーンマン」とは「キリスト教以前のケルト神話などに出て来る森林、樹木への精霊信仰の名残」で「教会の壁や柱に彫刻されているモチーフ」だとか。

自然を散策することが趣味の男。突如、歩き出すオークの巨木。男は死んで芽をふいて「一本の樹木」になるといういわば輪廻転生を体験する悪夢を見る。夢にしてはリアル過ぎるのだが。

 

ゴルゴダの丘
フィリップ・ハーコートは「ケンブリッジ大学で史学で優秀な成績」で研究の道もあったが、彼は「失われた父祖の地をとりもどす」ために、金の亡者となった。経済的に成功した彼は、かつての先祖の地が売りに出されることを願っていた。
現在の土地の所有者に次々と不幸が起こり、売りに出される。呪いの地と忌み嫌われたのか、フィリップのものとなる。広大な敷地。丘の上に木が。トネリコの木だった。魔女はトネリコの木の近くに住むといわれ、ホウキの柄はトネリコでできていた。
その丘は「ゴルゴダの丘」と呼ばれ、かつて刑場があった。先祖が関わった事件を本で知り驚愕するフィリップ。因果応報なのか、悲惨な結末。M・R・ジェイムズの『秦皮(トネリコ)の木』を彷彿とさせる。

 

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