エロスとタナトスの間に

 

 

『さだめ』藤沢周著を読む。


藤沢周石井隆、日活ロマンポルノ。別に三題噺ではないのだが。本作は、タイトル通り、ファム・ファタール(運命の女)ものである。一気に読み終えてから、以前どこかで読んだことがあるというデジャ・ヴュに襲われた。晩年は映画監督になった石井隆が、かつて漫画家時代に一世を風靡した劇画『名美』シリーズだよね、これは。故人になってしまったが。

 

『名美』シリーズの主人公は、ブルーフィルムに出演していた名美を偶然見かける。そこから、堕ちていくというストーリーなんだけど、よもや十数年ぶりに小説で同じ世界に再会するとは。描線の多いコマ。書き込まれた衣服やストッキング、身体の襞や皺の一本一本に圧倒された思いがある。背景にモノクロコピーを使った技法も記憶に新しい。

 

んでもって、本作の紹介。こっちの主人公は、フリーのAV(アダルトビデオ)スカウトマン。繁華街へ出ちゃあ、めぼしい女の子に声をかける。自分が値踏みして、うまく女の子がデビューとなれば、そこから手数料がいただける。作者は、永沢光雄の『AV女優』あたりにインスパイアされたんだと思うのだが。

 

ある日、彼の携帯に電話が入る。彼には記憶のない女性の声。待ち合わせをして実際に会ってみても、声をかけた記憶がない。彼女は、すっぴんだと地味なのに、いったん化粧を施すと別人のように見違える。彼女は物入りらしく、いきなり彼に法外なギャラを要求する。


初めてビデオカメラの前に立っても、何の臆面もなく男優とからんでいく。スカウトマンの彼でさえ、彼女の真意はつかめない。

 

あとは、お決まり。彼は、あらがうこともできずに、彼女に溺れていく。アダルトチルドレンの彼女の狂気を孕んだ美しさ。もうもうお約束というか、常道路線。ラストの陳腐さもこの際、目をつぶろう。エロティックなんだけど、エロではない。もろ日活ロマンポルノ(最大の賛辞!)。映画化するなら、主人公は誰だろう。


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