芸術家な日々。描かずに、造らずにいられない

 

 

テレピン月日』大竹伸朗著を読む。


作者のデビューシーンは、鮮烈だった。ニューペインティング(懐かし!)がアートシーンで注目されていた頃。横尾忠則は画家宣言しちゃうわ。個人的には、ジュリアン・シュナベールの絵が好きだったけど。そうそう、ニューペインティングじゃないけど、デビッド・ホックニーのタブロー画もよかった。そんな中、彼は大胆なコラージュ作品でADC賞をかっさらうなど、当時のアート少年・少女に強烈なインパクトを与えた。

 

その後、彼は四国・宇和島に拠点を移して、創作活動に励む。この本には、東京で展覧会を開くので、東京の仮住まいでの制作日記が挿入されている。

 

最も印象深かったのは、制作に駆り立てるものについて書かれたところ。作者は、吉村昭の『破獄』のモデルになった「破獄王 白鳥由栄」と、ある日突然、天の啓示を受け、「郵便配達の仕事をしながら」「巨大な建物」を延々と造り続けたシュヴァル−確か、種村季弘のエッセイで読んだことがある−の二人を取り上げる。アートとは、この駆り立てるものだと述べている。描かずに、造らずにいられない。アートシーンの動向も、
美術評論家もへったくれもなく、ただただ、めげずに持続する力。質も量も圧倒的なんだろね、アーティストは。

 

作者自身、画廊とのトラブルで、作品が発表できないことがあり、俗にいうホサれる状態で、辛かったが、作品をつくり続けたという話は、けっこう、ジンときた。

 

自称アナログアーティストである作者がパソコンで作品をつくるくだりが出てくる。いままでは、筆なり、ペンなりで、紙やキャンバスに直接描いていたものが、タブレットでペン入力。当然、パソコンオペレーターがそばについているのだが。絵よりも掘り師や刷り師がいる木版画リトグラフに近い感覚なのだろう。

 

制作過程でパソコンがフリーズして、作品がおジャンになってしまう。パソコン経験者なら共通感覚的にわかると思うが。出力の際に、トラブルがあり、でも、結果的には予期せぬミスにより、面白い作品が仕上がったという。ある意味、チャンス・オペレーション的。

 

作者と同世代なので、作者がジャパンのデヴィッド・シルヴィアンとの交遊について書かれたところも、懐かしかった。『オイル・オン・キャンバス』や『ブリキの太鼓』−アートとロックが融合した後期ジャパンのアルバムはテクノポップのひとつの結実といってしまってもいい。

 

自身もノイズ・ミュージックを演奏してアルバムもインディーズで出している。

 

この本には、筆と墨、アクリル絵の具?で描かれたさまざまなドローイングが掲載されている。油絵具とテレピン油ではないはず。描線はすばやく、シンプルであるが、内奥された作者の世界が伝わり、気持ちのいい絵。この絵を見るだけでも、手に入れる価値はある。

 

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