ガーリッシュ・ホラーよりもフェミニズム・ホラーと言った方が的確かも

 

 

『わたしたちが火の中で失くしたもの』マリアーナ・エンリケス著 安藤哲行訳を読む。

 

訳者あとがきによると作者は作家になる前、ジャーナリストだったそうだ。事件や問題の裏にある、貧困、暴力、貧富の差、政治の至らなさなど、そこからホラー小説を書くようになったのだろう。ま、ホラーマニアってこともあるが。リアリズムがないじゃん、ホラーなんて。と思われるかもしれないが、いやいや、アルゼンチンのみならず、こうして日本でも読まれているのは、普遍性つーかとんがったセンスに今日的な魅力があるからなのだろう。


キモさ、グロさではピョン・ヘヨン著の『アオイガーデン』や『ホール』あたりと並ぶなと、ふと思った。何篇かを紹介。

 

『汚い子』
ブエノスアイレスの郊外に住むマミータ。おとなりにはホームレスの薄汚い母子が住んでいる。ある夜、汚い子が彼女の元へ。母親がいなくなったと。一緒に探しに出かける。諦めて戻ると母親がいた。罵られる彼女。翌朝、母子は去っていた。そして子どもの死体が発見された。惨たらしい殺され方で。あの子か。母親は白を切る。麻薬の売人の復讐というが。

 

『オステリア』
オステリア(小さなホテル)のオーナーは観光ガイドをしていたロシオの父親をクビにした。ロシオはフロレンシアとともにホテルに忍び込んで、マットレスを切り刻むなど、その恨みを晴らそうとする。

 

『隣の中庭』
パウラとミゲルは運よくテラス付きの良い住まいを借りることができた。家主も良い人そうだし。夜中、激しいノックの音で起こされる。テラス越しに隣の家の中庭を見ると動くものが。真っ裸の子どもに見える。ひょっとして監禁されているのか。以前子どもシェルターで働いていた彼女。通報を考える。幻覚だと言うミゲル。

 

『わたしたちにはぜんぜん肉がない』
ごみの山から下顎と歯が欠損した頭蓋骨を見つけた「わたし」。「ベラ」と名付けた。恋人は「いかれている」と。「ベラ」にウィッグを買ってあげたい。豆電球を買って眼窩に付ける。眼球替わり。ぴかぴか光る。母親は私を見て痩せたと。そう、骸骨みたいでしょ。

 

『黒い水の下』
15歳の少年二人が帰宅中、キオスク強盗の容疑者として二人の警官に捕獲される。酔っていた警官は若者たちを殴り、川に落とす。一人は溺死体で発見されるが、もう一人は
行方不明。警官たちは逮捕される。検事マリーナの聴取に警官は黙秘する。彼女は事件の現場を調べに行く。汚染された川、その一帯はスラム街でタクシードライバーも厭々走る。念のため銃を忍ばせた検事は、その地区の教会へ。工場の川への不法投棄裁判で知り合ったフランシスコ神父に会いに。すると。検事マリーナってシリーズものでいけると勝手に思うんだけど。

 

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