「わたしがドードー鳥なら、ケイナちゃんは孤独鳥(ソリテア)」

 

 

ドードー鳥と孤独鳥』川端裕人著を読む。

 

ドードー鳥について著者は『ドードーをめぐる堂々めぐり』を書いた。これが、ノンフィクションなら、本作は、同じ素材で小説に仕立てたもの。同じ材料で肉じゃがとカレーになるようなものか。違うか。

 

主人公は二人の少女。望月環(タマキ)と佐川景那(ケイナ)。タマキは父親の病気療養を目的に房総半島南部の町に引っ越した。同級生がケイナ。豊かな自然の百々谷(どどたに)が二人のお気に入りスポット。タマキの父親は歴史学者だが、生物学にも詳しくて二人の良き先生となっていた。『となりのトトロ』を彷彿とさせる。


タマキ以上にケイナは絶滅動物に強い関心を抱いていた。「わたしがドードー鳥なら、ケイナちゃんは孤独鳥(ソリテア)」。百々谷にドードー鳥と孤独鳥がいたら。思いをはせる。

 

大きな台風が来て百々谷やつくも谷で大規模な地滑り、土石流が起きる。ケイナの母親は行方不明、父親とは別居中。転校を余儀なくされる。

 

タマキも東京に戻る。高校生のとき、ネットの記事で北海道にケイナがいることを知る。彼女は「英語論文コンテストで最優秀賞をとって、奨学金を得た」という。タマキは大学では物理学を学んだが、新聞社の科学記者となって、絶滅動物を調べる。メインはドードー鳥。

 

ケイナはアメリカで絶滅動物のゲノムを研究、孤独鳥の全ゲノム解読に成功していた。

リケジョ(死語?)となった二人は20年ぶりに再会する。

 

タマキは記者では江戸時代に日本に来たドードー鳥についての調査や執筆に納得のいくものができないと退社、フリーとなる。新型コロナウィルスが蔓延して海外へ行くことが困難となる。ケイナが所属していた研究機関も閉鎖となって再び消えてしまった。

 

タナキは住まいを懐かしの百々谷に移す。意外にもケイナは日本に戻っていた。一人でゲノム編集を進めていたケイナ。案じるタマキ。

 

「(カルタヘナ法とは)生命多様性条約に基づいて遺伝子組み換え生物の安全性を確保する議定書を、日本国内で実施する法律のことだ。わたしはこれについても、新聞記者時代に少しだけ調べて解説記事を書いたことがある。現代のバイオテクノロジーの利用によってつくり出された、「LMO(「生きている改変生物」)の流通、栽培、環境への放出などを規制しており、研究室でゲノム編集された生き物が外に出ることについては、厳しい制限がある。一方で、アメリカでは、まだこの議定書を批准していない」

 

そして百々谷屋敷にケイナが来る。さて、絶滅種の復活は?

 

ゲノム改編は創造主=神の領域に近づくことであり、素晴らしいとは思うが、その反面、キメラやそれこそバイオテクノロジーによるフランケンシュタインを生み出す可能性もある。

 

サイエンスライターでもある著者ゆえ随所に興味深い話を盛り込んでいる。こんな感じ。

 

タマキが国立自然史博物館の鳥類キュレーターから聞いた話。
「(絶滅種を悼むのは)ニ十世紀以降の人類がはじめて、ということだね。同じ人類でも、クロマニョン人はマンモスを狩りながら肉のことしか考えなかったし、オランダ人の船乗りはドードー鳥を追いながら『絶滅』のことを知らなかったし、オオウムガラスの最後の二羽を殺したアイスランドの漁師たちも目先の利益以外のことは考えていなかっただろうって…」

 

版元らしい凝った装幀。でも、もっとカジュアルな方が本作の世界観が伝わる気がする。そうさな。ドードー鳥のTシャツを着たタマキと孤独鳥のTシャツを着たケイナの2ショットとか。

 

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