点から線へ。日本のミステリーの系譜を知る。ぞくぞく、読みたい本も

 

 

『怪異猟奇ミステリー全史』風間賢二著を読む。

 

日本のミステリー、主に昔の作品を、虫食いで読んでいる。
情報源はネットレビューなど。そこで評判のよいものを買ったり、借りたり。
圧倒的に図書館本が多い。理由は簡単。借り手が少ないから。

 

で、時にはミステリーの系統学的な本を読むと、点と点がつながって線になる。
この本もそう。知らなかったことを教えてくれる参考書として。
また読みたいミステリーのガイドブックとしても有効。

何か所か引用。

 

「19世紀末から20世紀前半にかけて、知識人の最大の関心ごとは、明らかにすること、暴露すること、解読すること、読み解くことにありました」
「つまり、彼ら知識人・文化人はみな、世界という謎(ミステリー)に対峙する探偵であり、不可解な現象という病の内部・下部の奥深くに隠れ潜んでいる真理という原因を診断する医師であることに自覚的でした。こうした探偵=医師としての代表者が
精神分析ジークムント・フロイトです」

 

医師でもあったコナン・ドイルが生んだシャーロック・ホームズフロイト精神分析が同床だったとは。

 

明治時代、『鉄仮面』『巌窟王』『嗚無情』など翻案小説で人気のあった黒岩涙香。実はゴシップ紙「万朝報」の社主だったとは。黒岩のエンタメ系探偵小説がベストセラーとなりいわゆる純文学がさっぱり売れない(いまと変わりない構図?)ことで徳富蘇峰らによる探偵小説が批判されたことは、興味深い。

 

探偵小説が売れるなら書いてみようかという純文学作家も現れたそうな。
その中で作者は谷崎潤一郎を第一に挙げている。谷崎の探偵小説・犯罪小説をこう評している。

 

「(谷崎の探偵小説・犯罪小説は)ドイル型というよりポー型です。ドイルの探偵小説が医者の分析とすれば、ポーのそれは患者の独白です。言うまでもなく、その患者とは心の病を抱えた人のこと。つまりは異常心理(昔は「変態心理」と呼ばれていました)の悪夢と迷宮世界を語っているのが谷崎の探偵小説です」

 

作者のお気に入りも『人面疽』とは。

 

子どもの頃好きだった映画『海底軍艦』(本多猪四郎監督、円谷英二特殊撮影監督)、押川春浪の原作が刊行されたのは、なんと「1900年(明治33年)」だった。

 

作者曰く「探偵小説の最初の黄金時代は江戸川乱歩が雑誌『新青年』に登場した1923年(大正12年)から1927年(昭和2年)まで」だそうだ。「大正ロマンから昭和ロマンへ」。「エログロと退廃美」がもてはやされる。

 

「1933年(昭和8年)から1938年(昭和13年)頃までが探偵小説の第二期黄金期」を迎える。「夢野久作ドグラ・マグラ』と小栗虫太郎黒死館殺人事件』」が代表作と。

 

しかし、戦時下に向かいミステリー作家は戦争賛同派と戦争非賛同派に分かれる。

海野十三は、「児童向け軍事SF」を書いて戦後、公職追放となる。

 

終戦後、次々と「推理小説専門誌」が「創刊ないし復刊され」、「探偵小説=推理小説」は息を吹き返す。

 

んで松本清張に代表される「社会派推理小説」が、大衆から支持される。

「従来のトリック偏重のゲーム的な本格謎解き小説に疑問を持ち、罪を犯す動機こそが重要だという信念のもとに」「つまり、動機を追及することが性格を描くことになり、結果的には人間を語ることにつながるというのです」

 

その反動から誕生したのが「新本格」だと。新探偵小説、メタ探偵小説、変格探偵小説。何でもありのミステリー。要するに面白っきゃなんでもいいじゃん。

 

作者は綾辻行人の『眼球奇譚』とジョルジュ・バタイユの『眼球譚』が、内容はまったく異なるが、共通する「眼球」のメタファーを比較している。かつて卒論でバタイユを取り上げた者としては、まずは、『眼球奇譚』を読まねば。

 

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