『夜歩く』ジョン・ディクスン・カー著 和爾桃子訳を読む。
著者の長篇デビュー作だそうで。本作もまた読み出すと止まらなくなってしまった。
パリの予審判事アンリ・バンコランの友人である「私」、ジェフ・マールが語るスタイルで展開する。
バンコランは、剣の達人であるサリニー公爵と再婚相手であるルイーズの警護を頼まれる。ルイーズの元夫でサイコパスのローランが二人を亡き者にしようとしているからだ。蟻一匹はい出る隙のない警備にもかかわらず公爵はナイトクラブのカード室で殺されてしまう。しかも、首チョンパで。はい、カー劇場のはじまりい。
切断された首のグロテスクなまでの描写は、確かに横溝正史や江戸川乱歩に影響を与えていたことがうかがえる。横溝には同名の『夜歩く』という作品もあるし。
名探偵の名にかけて真相解明に取り組むバンコラン。
本当にローランの仕業なのか。にしても怪しいヤツばっか。ナイトクラブの太っちょ店主フェネリはいけすかないし。マダム・ルイーズはやさぐれ。アメリカ人のゴルトンは悪徳おぼっちゃま。
文庫の裏表紙から引用するが、「怪奇趣味」、「不可能犯罪」、「密室殺人」の豪華3点セット。解説で巽昌章が「ディクスン・カーの小説は最良のお化け屋敷」と述べている。けだし、名言。
人物造形やら舞台装置、美術の細部までこだわり抜いた一級品のクラシカルなお化け屋敷。
妖しいナイトクラブ、行き交うオシャレな紳士・淑女。殺人、セックス、麻薬など刺激的な誘惑。
来るぞ、来るぞ。出るぞ、出るぞ。とドキドキしながらページをめくる。
密室殺人の謎明かしやローランのとった行動など100パー納得はできないけれど、
そこは目をつぶってもお釣りがくるほど面白い。最後の犯人の長広舌は、見もの。つーか読みもの。
余談。バンコランと聞くと、自然と『パタリロ』を思い浮べるのは、ぼくだけではないだろう。wikipediaに出ていた。
バンコランの名前のモデルは、ジョン・ディクスン・カーの推理小説に登場する探偵アンリ・バンコランであることになっている。
ほんまかいな。知らんかった。
カーというお化け屋敷にはまりそうな気がする。