ブルジョワジーと科学の関係学

 

『道楽科学者列伝 近代西欧科学の原風景』小山慶太著を読む。    


バブルがはじけると共に、はじけとんだものの1つに、メセナがある。企業の文化・芸術への支援活動と訳されているようだが、元々は、パトロン、パトロネージュという。そのままだと、銀座あたりのホステスを囲っているヒヒジジイみたいだから、メセナなんて名称をひっぱりだしてきたようだが。

 

友人の彫刻家も、最近は企業からのモニュメントの依頼なんぞさっぱりとか。たまにあるインスタレーションの仕事も、実費のみというあんばいで、持ち出しで泣き泣き創作活動を継続しているのが、実状らしい。

 

枕が長くなってしまったが、さて、本作は、近代科学の発展に貢献した有産階級の好事家(ディレッタント)、すなわち物好きの話。

 

なぜダーウィンは、進化論にたどり着けたか。それは、「父上が裕福な開業医」で、妻の実家がウェッジウッドで、思う存分「研究三昧に耽ける」ことができたから。

 

パリの閨秀サロンでリシュリュー公爵、ヴォルテールらとの華やかな恋の遍歴を重ねながらも、ニュートンの大著『プリンシプル』を仏訳したシャトレイ公爵夫人。

 

ロンドン王立協会の首領(どん)であったジョゼフ・バンク。彼は、パトロネージュとして「植物細胞の核の発見」者、ロバート・ブラウンや後にキューガーデンを再生した植物学者ウィリアム・ジャクソン・フッカーに「目をかけていた」。

 

億万長者の家に生まれたパーシヴァル・ローエルは、私設天文台を建設し、火星を研究。著作の中で、火星に知的生命体が存在していることや運河があることを大胆に推測している。H.G.ウェルズなどの作家に大きなインパクトを与えた。

 

ロスチャイルド家の跡取り息子に生まれたのに、銀行頭取の座をあっさり弟に譲り、膨大な動物コレクションに情熱を傾けたウォルター・ロスチャイルド。などなど。

 

あまりにもそのスケールのすごさに、一種の爽快感すら感じてしまう。あー、なんてうらやましい。ともかく、まあ、食べることには困らないから、自分の好きな世界を究め続けられる。これは、これで立派なオタク道ではないだろうか。代償や利益を求めないまさに、道楽だから潔さや心地よさを感じてしまえるのだ。結果として、それが社会の役に立つというのか、科学の発展に寄与したわけだ。

 

ふと、坂田靖子あたりにでも、漫画化してもらいたいと思った。

 

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