ヒトは「完全人工培養」されるのだろうか―SFが現実に?

 

 

『人工培養された脳は「誰」なのか-超先端バイオ技術が変える新生命-』フィリップ・ボール著 桐谷知未訳を読む。


「2017年の夏、わたしの腕から採取された小さな断片が、ミニチュアの原始的な脳につくり替えられた」
というショッキングな書き出し。

 

「細胞培養で育てられたヒトのニューロンは、たとえ初期の胎児の脳に似た形を取っても、本物の脳にはなれない。しかし、これらの神経細胞は確かに、自らの遺伝的プログラムの命令に従って、本物の脳が示す特徴の一部をつくり始める」

 

「こういう研究室で培養された細胞構造をもっとも中立的に表す言葉が“オルガノイド”だ」ips(人工多能性幹細胞)細胞やes細胞などでつくられたミニ臓器。

 

「人間のあらゆる器官を培養することは、研究者たちの夢だった」

 

義足、義手など義体(by『攻殻機動隊』)や機械の体(by『銀河鉄道999』)など、人は工学的テクノロジーで補完しようとしていた。
ところが、細胞生物学では細胞を培養することで臓器など代替物の形成を可能にする。
代替物という表現は語弊があるかもしれないが。

 

作者は「アメリカの組織工学企業のロバート・ランザの予言を引用している」

「この幹細胞についての研究を進めることができたなら、わたしたちが年老いるころにはありきたりのものになっているだろう。ただ診療所に行って、皮膚細胞を採取してもらうだけで、新しい器官や新しい組織―新しい肝臓、新しい腎臓―が戻ってきて、修繕が完了する。そしてこれは、SF小説ではない。まさに現実そのものなのだ」

 

山中伸弥教授をはじめ多くの日本人研究者が取りあげられている。
日本などで盛んなのは、おそらくキリスト教の縛りがないからなのだろう。

 

ただし倫理上の観点から、日本でもアメリカでも「ヒト多能性幹細胞を非ヒト胚に挿入する研究」は、禁じられている。

 

「動物の体内でヒトの器官がつくれるようになれば、臓器不全に直面する何千もの人々の人生を一変させることができる」
と話す日本人研究者。

 

つい先日「遺伝子操作したブタの心臓を人に移植する手術を実施したと発表」された。
素晴らしいと思う反面、薄気味悪い印象もぬぐえない、正直なところ。

 

フランケンシュタインやキメラ、さらに試験管ベビーの可能性や人工授精の歴史など
幅広い観点から述べている。


「神である主は、人から取ったあばら骨で女を造り上げ、人のところへ連れて来られた」(「創世記」第二章(聖書協会共同訳))

 

幹細胞の究極の目標も同様に人をつくることになるのだろう。

 

「しかし、幹細胞から配偶子をつくるのは、ニューロンをつくるほど簡単ではない」


現状では、まだらしい。可能性は高いと。いいのか、悪いのか。

 

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