オレンジ猫とオレンジ猫

目的をもたない意志―山川方夫エッセイ集

目的をもたない意志―山川方夫エッセイ集


数日前の朝日新聞の投書欄に、朝か晩にジョギングを日課にしている人が
今年の夏は朝夕が涼しく感じられ、節電効果のせいかと書いていた。
去年の今頃は暑いのに取材が重なり、ネクタイを締めて移動していた。
それに比べりゃ…。ヒートアイランド現象も少しはましになったのだろうか。
そしたらいきなりの涼しさ。
網戸を閉め忘れて寝ていたら明け方ひんやり。
不可思議な機械音、唸り声のような音で目が覚める。
障子を開けると、塀の上に外猫のオレンジが、前傾“ガントバシ”姿勢でいる。
よく見ると塀の曲がり角にもう一匹オレンジ猫がいる。
分身の術でも使ったように瓜二つ。
一応この界隈を仕切っているオレンジが「オレッチのシマを荒らすなよ」って感じ。
もう一匹のオレンジ猫はどこ吹く風。そ知らぬふり。
その声にうちの猫も下りてきて覗いている。
結局はガントバシ唸り声を出していたオレンジ猫が退散というあっけない幕切れ。


『目的をもたない意志』山川方夫著を読む。
山川の著作は『夏の葬列』を文庫本で読んだだけ。
エッセイのアンソロジーだが、意外なことに新しい。

「編輯者なんて、自分の欲求を読者の欲求と信じなければ、
とても身を入れた仕事なんてできるはずがないと、
僕は今でも半分は本気でそう思っている」

とは江藤淳を見出した『三田文学』編集長の経験からか。
「半分は本気」、残りの半分はビジネス感覚なのかな。

「彼のユーモアが、他人のサービスというより、もっと自己本位なものであること、つまり、彼のいっさいは、ときには相手の存在さえ見失うほどの怒りであり、いいかえれば、彼自身のおびえへのそれほど激情的な固執なのだ、と思うようになった。事実、彼ほど本質的に「遊び」や「軽薄さ」に遠く、それらに執拗かつ大真面目な関心や好奇心やを抱きながら、それらの不得手な人間も少ない」

とは「中原弓彦について」の一文。著者は中原が編集長をしていた
ヒッチコック・マガジン』にショートショートを寄稿していた。
小林信彦がいかに頑なな人、ブレない人がわかる。
そして文学世界も。


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