『缶詰サーディンの謎』(DALKEY ARCHIVE)ステファン・テメルソン著 大久保譲訳を読む。
ストーリーを紹介しても、この作品の魅力は伝わらないが、一応、ざっと。ポーランド出身で英国在住の作家バーナード・セント・オーステルが列車の中で亡くなる。葬儀で会った妻・アンと秘書・マージョリー。秘書は作家の愛人だった。反目するかと思いきや意気投合。ラブラブモードでスペイン・マヨルカ島に住む。二人は「ダンシング・レディース」と名乗る。
マヨルカ島には占い師のミス・プレンティスと天才少年と呼ばれる息子・イアン。イアンの父は「ロンドンに亡命していたピェンシチ将軍」。哲学者ティムと妻・ヴェロニカ。娘のエマがいた。イアンはエマが好きだったが、海の事故で亡くなる。ティムはロンドンにいた頃、爆弾を仕込んだ黒いプードルにより、ドカン!!彼は半身不随となった。とまあ、こんな按配。
どことなく世界がミラン・クンデラの『存在の耐えられない軽さ』にも通じているような。同じ東欧の作家と強引に括ってしまうが。あとはさ、ポーランドの作家でパイセンといえるのは、ゴンブローヴィッチかなと思ったら、会話に一度だけ、脈絡もなく、出て来た。
奇妙な味わいのポップ文学。ボリス・ヴィアンに『北京の秋』という小説があるが、北京も秋も出てこない。本作では「缶詰サーディン」は、最後の方に登場するから、まだ、まし?
「訳者あとがき」によると、作者はルイス・キャロル推しだったそうで。なんとなく、わかる。ズバリ、「気狂い帽子屋(マッド・ハッター)」というキャラも出て来るし。
実は彼は地球でサーディンを探している異星人?
イアンがエマに書いたラブレターのような論文のような「ユークリッドはマヌケだった」は傑作かも。ナンセンス具合がルイス・キャロルっぽい。「訳者あとがき」によると、作者は絵本作家でデビューしたとか。ふと、ササキマキあたりのナンセンス絵本が浮かんだ。
一作だけでは判断できないが、ヘンテコ具合が気に入った。他の作品も読んでみたい。頼むぜ、国書さん。