『鹽津城』飛浩隆著を読む。
期待しつつ、読み切れるだろうか、理解できるだろうか、と思いつつ頁をめくる。何篇かの話を紹介。
『未の木』
単身赴任している妻・杏子の元へ結婚記念日の祝いとして「未の木」という鉢植えが夫・森一から贈られていた。その木はなぜか森一の顔に似た花を咲かせる。そしてその匂いは、夫の体臭と極似していた。以心伝心ではないが、森一にも杏子から鉢植えが贈られる。その木の花は杏子に似ていて、懐かしい妻のにおいがした。「未の木」の花は
夫と思われる実をたわわにつけていた。若い夫から老いた夫までさまざまな形態の実。会いに行く二人。完全なすれ違い。すべての謎明かしはしない。それにしても、哀しく、切ないラスト。今様「雨月物語」ってとこ。
『ジュヴナイル』
染井かおるは父親が切り盛りしていた喫茶店で週に二回、こども食堂を開いている。そこへユートとキミカが来る。転校生のニワもいた。ニワの家は招かれる。市営住宅の一室。ニワは小説を書いていた。ノートには、「ジュヴナイル」。読んでくれとせがむニワ。ニワの母親は風俗で働いていて、ユートの両親は振り込め詐欺の受け子をしている。というのは、ノートに書いた話。ニワは不思議な力をユートに見せてくれ、すぐに転校してしまった。ニワのノートがきっかけで作家になったユート。あの頃を回想してニワに話しかける。
『緋愁』
県の土木事務所に勤務する富田は、道路を不法に占拠している赤いタイルを貼り付けた十台もの赤い車、ガードレールも赤い布でグルグル巻きに。新興宗教団体の車の立ち退きを告げるために現場へ向かう。途中、最近、老母から聞いた話を思い出す。実は彼には妹がいた。しかし、生活困窮のため堕胎したと。小さなお雛様が飾られていたのは、生まれて来なかった妹への供養だったのか。宗教団体を説得した後に、「お兄ちゃん」という女児の声を耳にする。
『鹽津城(しおつき)』
「Facet1 志於盈(しおみつ)の町で」「Facet2 鹹賊航路(かんぞくこうろ)」「Facet3 メランジュ礁」の3つの話が進行する。
「Facet1 志於盈(しおみつ)の町で」は、氷山ならぬ塩山「鹵氷(ろひょう)」に襲われる。原発のある町・塩満(しおみつ)は、大地震による鹵津波(しおつなみ)で
壊滅状態。原発も壊滅のおそれがあったが、鹵(しお)が運んだ瓦礫などが防潮堤代わりになっていた。
「Facet2 鹹賊航路(かんぞくこうろ)」は、今度は体内に高濃度の塩がつくられる「鹹疾(かんしつ」が、パンデミック化する。そんな時代に、冒険漫画「鹹賊航路」が人気となる。作者は、村木一瀬(いちせ)と村木百瀬(ももせ)の双子で、塩満(しおみつ)出身だという。
「Facet3 メランジュ礁」「鹵氷(ろひょう)」と地球温暖化により、沈んだ国々。世界各国からの避難船は、そこを仮政府にする。海上に新たな土地を造る。鹽津城(シオツキ)という領土を。鹵(しお)に侵された苛酷な状況下でも子孫が繁栄するよう、男性も妊娠できるようになっていた。鹽津城とは塩付きでもあり、塩憑きなのだろう。
漢字へのこだわり、酉島伝法あたりにも通じる。時系列を超えたパラレルワールドを展開する。リアルとフィクションを自在に織りなす奔放な想像力。作者の真骨頂ではないだろうか。
